緊急事態宣言下の緊急保護に関する要望書

厚生労働大臣 加 藤 勝 信 殿

東京都知事  小 池 百合子 殿

豊島区長   高 野 之 夫 殿

 

 

<担当部局>

厚生労働省社会・援護局保護課 御中

東京都福祉保健局生活福祉部保護課保護担当 御中

               同指導担当 御中

豊島区保健福祉部生活福祉課 御中

 

 

 

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2020(令和2)年5月3日

 

   〒160―0004 

 東京都新宿区四谷3−2−2TRビル7階

マザーシップ司法書士法人内

ホームレス総合相談ネットワーク

連絡先 03―3598−0444

同事務局長 弁護士 髙 田 一 宏

弁護士 山 川 幸 生

司法書士 後 閑 一 博

  同事務局次長 司法書士 笠 井 真 悟

司法書士 力 丸   寛

司法書士 藤 木 誉 行

司法書士 福 井 裕 菜

相談員 市 橋   亮

 

第1 要望の趣旨

  •  厚生労働大臣及び東京都知事は、生活保護法第23条第1項及び同条第2項に基づき豊島区に対して、監査及び指示を行うことを求めます。
  •  厚生労働大臣及び東京都知事は、直ちに、すべての保護実施機関に対して、この連休を含め夜間休日であっても、生活保護法上の申請があった場合には、憲法第25条、生活保護法第1条ないし第4条の原理に則り、要保護者に対する必要な保護を欠くことがないよう周知徹底してください。
  •  豊島区は、令和2年5月2日生活保護法第7条に基づき、生活保護の申請をした要保護者に対して、生活保護法第9条に反し、令和2年5月2日から同月6日まで必要な保護を行おうとしなかったことを反省し、再発防止策を講じてください。

 

第2 要望の理由

  •  事実の経緯
  •  ホームレス総合相談ネットワーク(以下、「当団体」といいます。)は、2020(令和2)年5月1日、翌日の同年5月2日に東日本旅客鉄道株式会社池袋駅周辺のアウトリーチ活動を行うこととし、同地区を管轄する豊島区保健福祉部生活福祉課(豊島区福祉事務所)に対し、その旨を通知するとともに、生活保護申請があった場合には、厚生労働省・東京都の通知等に従い、閉庁中であっても生活保護申請を受け付け、申請者の当面の生活費・ビジネスホテルの宿泊費についてその場で速やかに交付できるよう、予め準備をお願いすること及びくれぐれも、閉庁中であることを理由に、申請者を追い返すことのないよう、休日・夜間窓口の職員への情報共有を徹底する旨の事務連絡をファクシミリ文書にて行いました。
  •  当団体は、本年5月2日、東日本旅客鉄道株式会社池袋駅周辺のアウトリーチを実施し、午後2時頃、本件申請者と出会いました。本件申請者は、失職中で、同日までの約1ヶ月間、東日本旅客鉄道株式会社池袋駅構内と構外を行き来する生活を余儀なくされており、所持金はわずか130円でした。
  •  当団体は、本件申請者からの生活保護を利用したい旨の申し出を受け、福祉事務所へ提出するための生活保護申請書への記入を済ませ、同日14時40分頃、本件申請者に同行する形で生活保護を担当する豊島区保健福祉部生活福祉課(豊島区役所東池袋分庁舎)を訪れました。
  •  本件申請者は、自らの生活保護申請書を豊島区役所東池袋分庁舎の一階受付窓口に提出しました。そうすると、窓口の警備員はいったん書類を受領したものの、生活保護申請にかかる申請書を受けることのできる権限がないという趣旨の理由を述べ、本件申請者の提出した生活保護申請書の受領を拒絶しました。当団体としては、生活保護申請にかかる申請書を豊島区が受理しないことについて抗議したところ、担当した警備員は豊島区の総務課の指示を仰ぐ旨を回答しました。
  •  ところが、担当した総務課は、本日は閉庁しており生活保護の申請を受けることはできない、連休明けの対応になる旨の対応に終始しました。当団体は、厚生労働省・社会・援護局保護課及び東京都福祉保健局生活福祉部保護課保護担当に架電したところ、それぞれ他部署の係員に対応いただき、同日15時50分頃、東京都から当団体に対し、「さきほど豊島区総務課に対して同区保健福祉部生活福祉課相談係係長(以下、「相談係長」といいます。)へ連絡し、至急対応するようにとの指示を出しました」との回答を得ました。
  •  そして、同日15時55分頃、相談係長から当団体の事務局長である髙田に対し、豊島区役所本庁舎の夜間・休日窓口にて本件申請者の生活保護申請を受け付ける旨の連絡がありました。そのため、本件申請者及び当団体の相談員らは豊島区役所本庁舎へ移動し、同日16時12分、豊島区役所本庁舎の夜間・休日窓口に生活保護申請書を提出しました。
  •  ところが、豊島区役所本庁舎で対応した豊島区総務課の係員2名は本件申請者の提出した生活保護申請書について「豊島区として預かる」との対応に終始し、本件申請者に対して必要な保護を実施しない旨を述べました。当団体の相談員らは、本件申請者に対する生活保護の実施責任が豊島区に発生していること等を根拠に豊島区総務課の対応に抗議しました。当団体から抗議を受けた総務課の職員らは再度前記相談係長への指示を仰いだようですが、相談係長は当初、「申請書は預かるが、豊島区としてこれ以上の対応はできない」旨の回答を総務課の職員を介して伝えるのみでした。これに対し、当団体の相談員らが再考を促した結果、同日16時45分頃、相談係長から高田に対して再度架電がありましたが、内容としては変わらず、保護申請書を受け取るが、それ以上の対応はできないというものでした。同日17時30分頃には、生活福祉課長からも電話がありましたが、相談係長と同様の対応に終始するものであり、具体的には、現時点で豊島区として対応できる支援は夜間・休日窓口に備蓄したクラッカーを給付するのみであり、たとえ所持金が130円であったとしても、どこに宿泊するのかも含めて教示・対応することはせず、本件申請者自身で考えていただくしかない旨を述べました。なお、相談係長と生活福祉課長のいずれの回答も、本件相談者と面談をすることなくなされたものです。
  •  その後、18時30分頃、生活福祉課長から髙田に対し、生活福祉課長と相談係長を含む係長2名が豊島区役所本庁舎に来庁するとの電話あり、19時25分頃、生活福祉課長及び係長2名が豊島区役所本庁舎に到達し、同課の保護を担当する係長(以下、便宜的に「保護係長」という。)による本件申請者の面談が実施されることになりました。相談を実施するにあたり、相談係長が本件相談者の検温を複数回実施したところ、いずれも37度前後を記録したため、本件申請者の希望もあり、同日20時00分頃、本件申請者に対し、福祉事務所が開庁する本年5月7日の朝までの間、豊島区内のビジネスホテルに宿泊する支援が決定されました。合わせて、5月7日までの間の必要な生活費についても支給されることが決定しました。
  •  保護係長が本件申請者をビジネスホテルに案内するため退庁し、その後当団体と生活福祉課長、相談係長との間で今後の運用について協議の場が持たれましたが、豊島区としては今回の対応は例外的な対応であり、常に今回のような対応を取ることは難しい旨を述べるとともに、あと4日を残す大型連休中の対応についても現時点では明言できず、検討させてほしいという回答に終始したため、その場は解散となりました。
  • 情勢

(1) 国は、国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあり、かつ、全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある事態が発生したと認め、2020(令和2)年年4月7日新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24 年法律第 31 号)第32条第1項の規定に基づき、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を発しました。これを受け東京都は、生活の維持に必要な場合を除き、原則として外出しないこと、施設の使用停止及び催物の開催の停止することなどを骨子とする要請を行うなどの措置を講じました。

(2) 緊急事態宣言に伴う、国民に対する行動制限、催事及び事業の営業等の停止の要請により、経済は悪化し、当団体らも参加する「コロナ災害いのちとくらしを守るなんでも電話相談会実行委員会」が、本年4月18日、19日に実施した電話相談会には、「外出自粛・休業要請で仕事と収入が途絶え、今月又は来月の家賃(自宅・店舗)やローン(住宅・事業)が支払えない。生活費も底をつく」という“崖っぷち”の切迫した相談が5009件寄せられるなど、深刻さを極めています。

(3) 当団体らの要望もあり、国は、本年3月10日付「新型コロナウイルス感染防止等に関連した生活保護業務及び生活困窮者自立支援制度における留意点」、本年4月7日付「新型コロナウイルス感染症等のため生活保護業務における対応について」などの事務連絡を発し「必要な方には確実に保護を実施する」ことを明確に要請しています。とりわけ、本年3月10日付事務連絡では、適切な保護の実施という項目が掲示され、「面接時の適切な対応としては、相談者の状況を把握した上で、他法他施策の活用等についての適切な助言とともに、生活保護制度の仕組みについて十分な説明を行い、 保護申請の意思を確認されたい。また、申請の意思が確認された方に対しては、速やかに保護申請書を交付するとともに申請手続きの助言を行う必要があることから、保護の申請書類が整っていないことをもって申請を受け付けない等、法律上認められた保護の申請権が侵害されないことはもとより、侵害していると疑われるような行為も厳に慎むべきであることに留意願いたい」とし、また、「速やかな保護決定」との項目においては、「生活に困窮する方が、所持金がなく、日々の食費や求職のための交通費等も欠く場合には、申請後も日々の食費等に事欠く状態が放置されることのないようにする必要がある。そのため、生活福祉資金貸付制度(緊急小口資金)等の活用について積極的に支援し、保護の決定に当たっては、申請者の窮状にかんがみて、可能な限り速やかに行うよう努めること」と周知されています。

(4) また、悪化する経済を背景として、居所を失った方、生活に困窮した方への対応が至急必要となることがあるとして、連休中における保護について、国は4月27日付「本年の大型連休における生活困窮者支援等に関する協力依頼について」を発し、連休中の相談体制の確保について、通知を発しています。すなわち、当該通知は実施主体に対し、「こうした状況の中、本年5月2日から6日までの5連休において、今般の新型コロ ナウイルスの影響により、居所を失った又は居所を失うおそれのある方、その他の生活に困窮した方への対応が至急必要となることがあると考えられます。また、住居確保給付金の支給対象の拡大等に伴い、それらの相談への対応も求められるところてす。 このため、必要な相談体制か適切に確保てきるよう、特に相談か多く見込まれる自立相談支援機関の窓口や福祉事務所等の臨時的な開所、電話等による相談体制の確保、その他の地域における連絡体制の確保など、連休中の相談体制の確保について、管内自治体や委託事業者等の関係機関と連携し、地域の実情に応じて対応いただくよう、 お願いいたします」旨を要請しています。

(5) 東京都福祉保健局生活福祉部保護課長は、各福祉事務所長あての令和2年4月10日付け事務連絡「新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言に係る対応について」(宿泊場所の確保について)のなかで、「緊急事態宣言に係る施設の利用制限によりインターネットカフェ等の利用ができなくなった住居喪失者から貴福祉事務所が相談を受け、生活困窮者自立支援法主管部署と調整の上、保護の適用が必要と判断する場合は、以下の手順で進める(休日及び夜間の閉庁時に緊急一時宿泊場所の利用が必要となった場合も同様)。」としています。これは、休日・夜間の閉庁時であっても、要保護者について、宿泊場所を確保する対応をしなければならないことを明確にしたものです。

 

  • 豊島区の違法・不当な対応について

(1)生活保護法は、1条ないし4条において、その原理を定め、憲法25条に基づき、国に必要な保護を行うことを義務づけています。また、法第19条により保護の決定及び実施は、実施機関が行わなければならないとされていますところ、本件申請者の申請は豊島区に対してなされており、保護の実施機関は、豊島区であって、実施責任が生じることになります。この点について、国は、前記本年3月10日付事務連絡において、相談者の状況を把握し、生活に困窮する方が、所持金がなく、日々の食費や求職のための交通費等も欠く場合には、申請後も日々の食費等に事欠く状態が放置されることのないようにする必要がある旨を周知していますところ、この理は保護の実施機関が閉庁中であることをもって失われるものではなく、ましてや保護の実施機関が閉庁中であることをもってその対応がおざなりになることが許容されたり、実施責任が免責されるものではありません。現に、国は実施主体等に対し、本年4月27日付事務連絡をもって「必要な相談体制が適切に確保できるよう、特に相談が多く見込まれる自立相談支援機関の窓口や福祉事務所等の臨時的な開所、電話等による相談体制の確保、その他の地域における連絡体制の確保など、連休中の相談体制の確保」を周知・要請していました。

(2) ところが、豊島区は、その根拠及び理由を示すことなく、また本件申請者の急迫性について何らの調査をすることなく、本年5月7日まで保護しないことを組織として決定したと本件申請者に伝え、現時点での必要な保護はクラッカーの支給のみであると説明するなど、約5時間もの間、必要な保護の実施責任を放棄しました。

(3) また、豊島区福祉事務所(豊島区役所東池袋分庁舎)には、豊島区の委託を受けた警備会社の警備員しか常駐せず、当該警備員らに対し、大型連休中における生活保護の申請窓口が本庁舎にあることを始めとする生活保護申請があった場合における対応指針等を全く伝えず、事実上本件申請者の申請権を侵害しました。

(4) 生活保護の申請は、夜間・休日であっても受理されなければならないことは当然ですが、保護の実施責任を負う実施主体としては、申請を受理した場合には、あわせて必要な調査をその場で行うとともに、状況に応じて必要な保護を直ちに行わなければ法の目的を達成することなどできません。現に、本件では生活福祉課長及び係長2名計3名が来庁し、来庁後は速やかに豊島区内のビジネスホテルを確保でき、また生活費の交付も実現したのでありますから、上記の措置が本件申請者にとって当面必要な保護であったことは明白です。生活福祉課長らは、今回の対応が例外的な対応であるかのような回答を当団体に対して行いましたが、どの申請者が申請に訪れても必要な保護は直ちに講じられるべきであり、少なくとも保護申請を受け付ける場所を教示することや当該受付場所において必要な保護を行える担当者を常駐させたり、常駐が難しければ電話等で随時必要な対応ができるよう体制を整えておくことは可能だったはずであり、これらの対応をしなかった豊島区の対応は明らかに不適切な対応と言わざるを得ません。

 

  • まとめ

 豊島区は、緊急事態宣言発令下において、国や都の通知を無視し、必要な準備を怠り、また、当団体からの法律や通知の内容についての詳細な説明を聞いても、なお保護の決定は実施機関にあるとうそぶき、6日の間なんらの保護も行わないことを組織としての決定であると説明したのであり、豊島区の行為はきわめて悪質性がが高いと断じざるを得ません。

 また、本件により、連休中の保護の相談体制が確保されていないことが露呈したのであるから、国は直ちにすべての保護の実施機関に、必要な保護を欠くことにならないよう措置を講じることを徹底してください。

以上

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2020年3月16日要望書(コロナウイルス感染症の拡大に関する「緊急生活保護ホットライン」の結果を受けて)

内閣総理大臣 安倍晋三 殿

厚生労働大臣 加藤勝信 殿

内閣府特命担当大臣(経済財政)西村康稔 殿

財務大臣兼内閣府特命担当大臣(金融)麻生太郎 殿

 

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2020(令和2)年3月16日

 

ホームレス総合相談ネットワーク

 

同事務局長 弁護士 髙 田 一 宏

弁護士 山 川 幸 生

司法書士 後 閑 一 博

司法書士 笠 井 真 悟

司法書士 力 丸   寛

 

弁護士 猪 股   正

弁護士 小 林 哲 彦

司法書士 吉 田 真理子

司法書士 半 田 久 之

司法書士 加 藤 裕 子

司法書士 後 藤 三樹子

社会福祉士 藤 田 孝 典

第1 要望の趣旨

1 国は、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対策の一環として、生活資金の逼迫・枯渇を原因とする生活保護申請については、生活保護法第4条第3項の「急迫した事由がある場合」に該当するものとして幅広く認め、速やかに保護を開始するよう、保護の実施機関に通知し、周知徹底してください。

2 国は、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、銀行等の金融機関に対し、住宅ローン・自動車ローン・カードローン等の各種借入債務の支払猶予を行うよう、早急に要請してください。

3 国は、新型コロナウイルスの影響による休業、休暇その他労働時間の減少による賃金の減少に対する助成金(給付)について、新型コロナウイルスの影響による賃金の減少全般に適用するよう適用範囲を拡大するとともに、労働者等が直接申請できるように制度を変更してください。

第2 要望の理由

1 緊急生活保護ホットラインの報告

ホームレス総合相談ネットワークは、2003(平成15)年2月に発足した任意団体であり、弁護士・司法書士を中心とした100名の相談員で構成されています。

主な活動内容は、ホームレスの方々への相談活動(電話相談や出張相談を含む)を中心とする活動を行なっており、ときには生活保護法の運用や生活困窮者自立支援法に基づく自立支援等の貧困問題に関する諸政策が適切になされるよう注視・提言するといった活動を日々行なっております。

昨今、新型コロナウイルス感染症の影響等により、収入等が減少したことにより、事業者・消費者問わず、家計における生活資金が逼迫・枯渇する現象が生じております。

このような事態に対応するため、ホームレス総合相談ネットワーク及び困窮者支援にかかわる弁護士・司法書士・社会福祉士(以下、「当団体」という。)は、2020(令和2)年3月15日、緊急生活保護ホットライン(以下、「ホットライン相談」という。)を実施しました。

ホットライン相談には、全国から、1日だけで120件の電話相談が寄せられ、新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの方々が生活に困っていることが分かりました(詳細については、追って報告いたします)。

2 急迫保護の活用

ホットライン相談の多くが生活資金の逼迫・枯渇を訴えるものであり、当団体としては、相談者らの世帯収入が最低生活費を下回るものについては生活保護制度を利用できるものと考えますが、ホットライン相談の中には、住宅ローンを支払っている世帯や、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける以前の平常時の収入は生活扶助基準を上回っている世帯からの相談も複数寄せられ、相談者らが生活保護制度の申請を躊躇してしまう状況が伺えました。

しかし、相談者らの世帯に現金がなく、一時的に世帯収入が減少して最低生活費を下回るものである以上、その生活の保障としては、生活保護制度の利用が最も有効です。ローン付きか否かに関わらず、不動産・自動車等の資産を所有している場合を含め、預金等の即時活用できる資産・能力がなく、かつ手持ち現金が乏しい場合には、急迫した事由があるもの(生活保護法4条3項)として幅広く認め、保護を開始すべきです。

厚生労働省は、この点を明確にし、生活に困窮している世帯の保護を積極的に行うよう、全国の福祉事務所に対して通知すべきです。

3 金融機関等に対する支払猶予の要請

 ホットライン相談においては、収入の減少に加え、住宅ローンやカードローン等の各種ローンの請求がさらに家計を圧迫しているという相談が数多く寄せられました。中には、収入の激減に伴い、世帯の生活費を確保するだけで精一杯の状態であり、とても各種ローンの支払いまでは手が回らないとの相談も相当数寄せられました。

 一時的な収入減少のため急遽資金繰りが悪化したような場合には、すぐに自己破産の申立て等の法的整理を行うのは適当ではありません。債権者らが各種ローンの支払いを一時的に猶予する等の対応を行うことで、期限の利益の喪失という事態に至ることを防止することができ、家計のやり繰りを後押しすることができると考えられます。

そのため、国が銀行を始めとする金融機関等に対し、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、各種ローンの支払猶予を積極的に認めるよう要請すべきです。

なお、当団体の上記要請は、経済的弱者の生活を崩壊させないことを目的とするものであり、国が全国銀行協会及び各金融機関等に対し、各種ローン等の支払猶予を行うよう求めることで十二分に達成できると考えております。上記要請は、新型インフルエンザ等特別措置法58条1項の「政令に基づく金銭債務の支払いの延期及び権利の保存期間の延長について必要な措置」を求めるものではなく、ましてやそのために「緊急事態宣言」(同32条1項)を出すことについても当団体は断固反対いたします。

4 労働者からの賃金等保証制度にかかる支給申請を認める制度設計を迅速に行うこと

 相談では、国が実施している賃金に関する助成金制度は、学校の臨時休業等の場合に限られており、適用範囲が狭いという声が上がっています。

例えば、福祉施設に勤務している者が咳などの症状(ただし、新型コロナウイルス感染症の感染の有無は検査していないため、原因がわからないもの。)があるため自主的に休暇を取るような場合には、現行の助成金制度は全く適用の余地がありません。そこで、新型コロナウイルス感染症のために賃金が減少したすべての人に対し、賃金の減少分の補償が行われるよう、制度を改める必要があります。

また、すべての非正規労働者や、請負や業務委託等の形式で契約しているフリーランスの者(以下、正規労働者を含めて「労働者等」と総称する。)が特に影響を受けやすいことに鑑み、すべての労働者等について減収分を確保できるようにする必要があります。

さらに、賃金補償の給付においては、事業主からの助成金の申請だけでなく、労働者等が直接給付を申請することもできるよう制度を変更すべきです。事業主からの申請としたのでは、そもそも申請するかどうかが事業主次第ということになりかねず、また特定の事業主の下で労務等を提供する形態ではない労働者等が制度の対象外となってしまうからです。実際、相談者の中には、自分に助成金が適用されることになっても、自分の勤務先は申請をしてくれるような優しい会社ではないから、今の助成金制度のままでは自分の収入減は全く補償されないだろうという嘆きの声が上がっています。

新型コロナウイルス感染症対策としての休業や自粛等による生活資金の補償は、国民生活及び国民経済に及ぼす影響を最小限に抑えるための必要な措置であり、対策を進める政府の責任で的確かつ迅速な実施に万全を期すべきものです(新型インフルエンザ等対策特別措置法3条1項、同6項参照)。

政府の責任によって、生活が困窮・逼迫している労働者等の元に早急かつ確実に生活資金が届くことが重要であり、そのためにも労働者らからの直接申請を認めるべきです。

5 結語

 よって、当団体は、関係機関に対し、要望の趣旨のとおりの対応を求めます。

以  上

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「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」の見直し(案)についての意見

「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」の見直し(案)についての意見

 

ホームレス状態にある人のほとんどは、「健康で文化的な最低限度の生活」をはるかに下回る生活水準で暮らしている。こうした人々を支援する施策は、まず第一に、憲法25条(生存権)が保障する健康で文化的な最低限度の暮らしを確保すること、とりわけ、居宅を失っているのであるから、速やかに居宅を提供することでなければならないはずである。これらを端的に行うことができる制度が、生存権保障を具体化した生活保護である。
 しかしながら、現行の「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」(以下、「基本方針」という。)は、生活困窮者自立支援法による生活困窮者一時生活支援事業(シェルター、自立支援センターへの入所など)などの支援が必要とするなど、生活保護の利用を推進するものとはなっていない。
 今回の見直し案でも多少の表現の変更はあるものの、現行の記述内容が基本的に維持されている。
  第1・第5段落では「生活保護が必要な者には、確実に生活保護を適用しつつ、生活保護の受給により居住場所等の確保に至る間、あるいは就労等による自立や地域において日常生活が継続可能となるまでの間は、困窮者支援法による一時生活支援事業をはじめとした就労や心身の状況、地域社会からの孤立の状況などに応じた包括的かつ早期の支援が必要である。」などとして、生活保護の利用を掲げながら、一方で生活保護とは異なる制度である自立支援センターへの入所を含む一時生活支援事業による「支援」を必要だとしている。この記述は、生活保護の申請を断念させるように仕向け、自立支援センターへの入所をすすめる違法な「水際作戦」を助長することにつながりかねない。
 また、施設収容に関しては、第3・2・(7)・ア・(イ)の「居所が緊急に必要なホームレスに対しては、 シェルターの整備を行うとともに、 無料低額宿泊事業 (略) を行う施設を活用して適切な支援を行う。」との記述、第3・2・(7)・イ・(イ)の「ホームレスの状況(日常生活管理能力、金銭管理能力等)からみて、直ちに居宅生活を送ることが困難な者については、 保護施設や無料低額宿泊事業を行う施設等において保護を行う。」との記述も、維持されている。ホームレス状態の人々を施設に収容して、社会から隔離しようとする発想が根底にみられる。
 そもそも、「居所が緊急に必要なホームレス」は、生活保護法25条1項の「要保護者が急迫した状況にあるとき」に該当する。よって、職権保護により速やかに生活保護を開始しなければならないはずである(もちろん、一時生活支援事業を検討すべき場合にはなりえない。)。保護を開始した場合には居宅保護の原則(生活保護法30条1項本文)が適用されるので、施設入所ではなく、居宅が提供されなければならない。
 当団体は、これらの記述が今回の基本方針見直しの対象になっていないことに断固反対する。基本方針には、ホームレス状態の人々の生活再建のために生活保護の利用を大いに推進するとともに、施設収容主義を排し、速やかに居宅に居住して暮らせるような施策を盛り込むべきである。したがって、基本方針は、その基本姿勢を抜本的に見直す必要がある。

また、そもそも、基本方針の策定や改定に当事者の参画がなされていないことも問題である。すなわち障害者分野で理念として掲げられ、現実にそれに沿った運動や実務がなされている「Nothing About Us Without Us(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)」は、ホームレス問題でも当然妥当するものであるところ、今回の基本方針の改定に際しては当事者の参加が検討された形跡は認められない。基本方針の改定に当事者の参加が要請されることに加え、基本方針内の支援計画の作成に当たっては当事者が参加して支援計画が作成されることも明記すべきである。これは当事者の意思が無視される支援計画など無意味であり、むしろ有害だからである。

また、当団体としては、国が実施するホームレス調査のあり方にも疑問を持っている。

すなわち、平成28年10月に実施された「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)は、同年1月に実施した概数調査に基づき、目標数を設定しているところ、この概数調査自体昼間実施されたものであり、実際のホームレスの数を適切に把握していたとはいえない可能性がある。現に、民間団体による夜間調査で、自治体の把握している数の約3.3倍ものホームレスがいたことも報告されている。また調査方法も面談とあるが、対象者も事前に選定告知されており、恣意性も拭えず、適切な調査がされたとは言い難い。

ホームレスの数についての調査を行うのであれば当然ながら夜間に行うべきであるし、行政のみで精密な調査を行うことが難しいのであれば、民間団体や地域のホームレス支援団体に協力を仰ぎつつ、可能な限り正確な調査を心がけるべきである。

最後に、反排除についても言及しておきたい。基本計画に謳われるように、基本的人権の尊重は、日本国憲法の柱であり、民主主義国家の基本である。しかし、これらの人権を侵害する行為が行政によって行われてきた事実に目を背けてはならない。

具体的には、渋谷区が、平成22年9月15日早朝、渋谷区立宮下公園にホームレス状態にある人がいることを知りながら、多数の職員・警備員において公園をフェンスで取り囲み、公園内にいるホームレス状態の人を担ぎ上げるなど実力で排除した。この事実は、裁判により認定され、国家賠償が認められている(東京地裁平成23年(ワ)第13165号)。また同じく渋谷区は、平成24年6月11日早朝、渋谷区美竹公園、渋谷区役所人工地盤下駐車場(地下駐)、渋谷区役所前公衆便所を一斉に閉鎖し、三か所で生活するホームレスの強制立ち退きを行った。この事実は、第二東京弁護士会により認定され、人権侵害に当たると勧告されている。これら渋谷区の行ったホームレスに対する居宅保護の開始など代替措置の伴わない強制排除は、憲法及び世界人権宣言、社会権規約11条、自由権規約17条に反するもので、人権侵害に当たるものである。上記の渋谷区の事例は、当団体が少なからず関与した事例であるが、ホームレス状態の人の生活の基盤であるテントや荷物に対する不法な干渉又は攻撃は、渋谷区以外においても、頻繁に行われている(なお、念のため付言すると、渋谷区はホームレス支援等について、区に対して意見する又は協議を要請する場合に生活福祉課長を窓口とする旨を当団体に回答しており、当団体としては引き続き適切なホームレス支援がなされるよう生活福祉課長及び関係機関と協議を重ねていく所存である)。

以上のとおり、行政による強制排除、人権侵害が行われている現状において、「ホームレスの人権の擁護に関する事項」には、一番大きな柱として行政による人権侵害を起こさないことの徹底があげられるべきである。東京オリンピックを控え、今後ますますホームレスの強制排除、人権侵害がなされることが懸念される。基本方針を策定するにあたっては、ホームレスの方の意思を尊重し、くれぐれも排除がなされないよう明記することを強く求める。

 

以   上

 

 

 

 

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生活保護基準引き下げ方針を撤回する等の要望書

要 望 書

2017年12月27日

内閣総理大臣 安倍 晋三 殿

厚生労働大臣 加藤 勝信 殿

 

生活保護基準引き下げに反対します(緊急ホットライン)実行委員会

代表 森 川   清

 

第1 要望の趣旨

1 厚生労働省は、生活保護利用当事者の真摯かつ悲痛な声を受け止めて、現在進めている生活保護基準の見直し案に基づく生活扶助基準(母子加算、児童養育加算を含む。)の引下げを撤回すること

2 厚生労働省は、生活保護基準の見直しにあたって生活保護利用当事者(以下「当事者」という。)を審議会に参加させ、当事者の意見の聴取および具体的な家計状況の調査を大規模に実施して、当事者の意見および事情を反映させた見直しをすること

3 内閣は、上記生活扶助基準引下げ部分について第1項の撤回に基づいて予算案の変更をすること

 を要望する。

 

第2 要望の理由

1 厚労省案の発表

  厚生労働省は、2017年12月8日に母子加算及び児童養育加算を含む生活扶助基準の引下げ方針を発表し、その後、同月14日付け社会保障審議会生活保護基準部会報告書(以下「報告書」という。)を受けるかたちで、2018年10月から生活扶助を3年かけて最大5%引き下げる方針を示し、見直しにより生活保護費は3年間で160億円とされている。そのうち、母子加算(子一人)については月額約5000円、児童養育加算の3歳未満児については月額5000円の引下げをしようとしている(以上をまとめて「厚労省案」という。)。

  2017年12月22日、内閣は、厚労省案に基づく生活扶助基準引下げを含んだ予算案を閣議決定した。

2 当事者を蔑ろにした厚労省案の問題

  報告書においては、2013年から行われた生活保護基準の大幅な引下げの影響の把握・評価について、生活保護利用当事者(以下「当事者」という。)の生活扶助基準の増減額の割合、家計の支出割合の統計的な推移の報告にとどまっていることが明らかにされている。

  生活保護基準は、生活保護法8条2項により「必要な事情を考慮」することが強く要求されており、必要な事情を把握するためには、当事者などの影響を強く受ける人々の生活実態について大規模なインタビューや家計調査などを実施する必要があるにもかかわらず、いずれも実施されていない。

 また、Nothing About Us Without Us (私たちのことを、私たち抜きに決めないで)という考え方は生活保護においても適用されるべきであって、基準部会の議論に当事者の参加が求められるべきであるが、生活保護においては2017年3月の小田原市生活保護行政のあり方検討会以外に当事者の参加がなされていない。

3 ホットラインの開催

  当事者が蔑ろにされている中で生活保護基準引下げがなされる状況のなか、生活保護問題に取り組む法律家及び市民の有志である我々は、実行委員会を組織し、厚生労働大臣に当事者の切実な生活状況及び意見を伝えるべく、2017年12月26日午前10時から午後7時まで東京・さいたま・大阪で電話13回線により「生活保護基準引き下げに反対します(緊急ホットライン)」を開催した。

 電話は、同日午後7時まで鳴り止まず、多数の電話が寄せられた。

4 2013年引下げの影響

 当事者からは、2013年からの引下げによって、①食事が削られている(中にはおかずがなく白米に醤油をかけて食べることもあるというものも複数あった)、②入浴回数が月に1回になってしまっている、③耐久消費財を購入する資金を保有する余裕が全くなく耐久消費財が壊れてしまったら買い換えられない、④衣服を買う余裕がなくサイズの合わない昔の服を着続けている、⑤冬はコタツだけで暖をとって暖房を使えない、⑥真冬に灯油が買えず肺炎になった、⑦交際費が捻出できず一切外出しない、などの声が寄せられる。

 これらはいずれも日本国憲法が保障する「健康で文化的な」生活とは程遠いものというべきである。

 厚生労働省は、かかる声があることを踏まえて、まずは2013年から行われた生活保護基準の大幅な引下げにより当事者にどのような影響があるかについて徹底的に調査すべきである。

5 今回引下げで保護費が減額された場合にどうするか

  寄せられた声の中には、今回厚労省案により生活扶助基準引下げがなされ、3000円が減額された場合、衣服は普段から買っていないので、食費を削るしかないという意見も多かった。

  また、これまで節約をし続けて、これ以上、生活費のどこを削ったらいいか想像もできないという意見も複数寄せられた。

  中には、3袋100円のうどんを買って毎昼食べているが、いつも素うどんではさびしいので、卵をかけている。今回保護費が減額したら、卵をかけるのをやめるしかないという当事者もいた。それでも数百円しか節約できず、あとはご飯を削る、そこから先は想像できないという意見であった。

 このように引下げ後の自分たちの生活について、想像もできず、自分たちの生活にビジョンを抱けない当事者が複数いる。低所得者との比較によって引き下げようとする厚労省案は、具体的な当事者の生活について、全くビジョンを欠いているというべきである。

6 まとめ

  本ホットラインにおいて、当事者からは「生活していけない」「死んでくれと言われているようだ」「死ぬしかない」「弱いものいじめはしないでほしい」「当事者の声を聞いてほしい」「逆にあげてほしい」など、意見が多く寄せられた。

  厚生労働省は、生活保護利用当事者の真摯かつ悲痛な声を受け止めて、当事者の意見および事情を反映させていない厚労省案に基づく見直しを含めて引下げを伴う生活保護基準の見直しを撤回すべきであり、内閣は、閣議決定した予算案のうち生活扶助基準引下げの部分を上記撤回に基づいて変更すべきである。

   

 

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生活保護基準の引き下げ方針に対する緊急声明

生活保護基準の引き下げ方針に対する緊急声明

ホームレス総合相談ネットワーク

事務局長 高 田 一 宏

 

私たちホームレス総合相談ネットワークは、ホームレス状態にある方たちへの法的支援を行うために、2003年2月に結成されたグループです。メンバーは、弁護士、司法書士、その他専門家、ホームレス問題の支援者などです。

平成291214日開催された社会保障審議会生活保護基準部会(以下「基準部会」)により社会保障審議会生活保護基準部会報告書(以下「報告書」)がとりまとめられたことを受け、緊急に声明を発します。

今でさえ低きに過ぎる、生活保護基準がこれ以上下がることに断固反対します。

その理由は、次のとおりです。

私たちが日常に支援するホームレス状態の人びとは、住居を失い衣食を欠く、絶対的貧困状態にあります。

確かに、ホームレス状態の人の生活実態は、比較対象である一般低所得層たる全国消費実態調査からも除外されていますが、絶対的貧困にもかかわらず、生活保護制度を利用できない/しない、理由を検証する必要があります。

理由の一つには、いわゆる水際作戦と言われる、保護を開始しない/保護は開始するが劣悪施設に収容する、という違法・不当な運用にありますが、特に、注視すべきは、ホームレスであった者もひとたび保護を受ければ、通常の被保護者・低所得者であるものかかわらず、ホームレスであった者として扱われ、劣悪施設に長期にわたり収容される差別(スティグマ)が続くことにあります。

そして、スティグマの存在は、決してホームレス特有の問題ではなことは、国連社会権規約委員会から、20135月最終見解として、「スティグマが高齢者に公的な福祉的給付の申請を思いとどまらせていること」に懸念を示された上で、「公的な福祉的給付に付随したスティグマをなくす観点から国民を教育すること」を勧告されていることからも明らかです。

スティグマの解消という国の責任を果たせていない現状において、単純に第1十分位(低所得者)との比較により、検証すれば、際限なく基準額は下がります。国は、少なからず生活保護が尊厳との引換給付となっている現状を直ちに解消すべきであり、無差別平等に保護が受けられる法の原理を徹底させることにこそ力を注ぐべきです。

以上

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明治公園で行われた事実上の強制立ち退きに対する質問書

当ネットワークのメンバーが中心となった、宮下公園国賠訴訟弁護団が、平成28年1月27日未明に明治公園で行われた事実上の強制立ち退きについて、強制立ち退きを実施したJSCに対して、強制立ち退きの法的根拠等について質問をしました。

ご連絡(質問書)

 

独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC) 御中

 理事長 大東 和美 殿

 新国立競技場設置本部 ご担当者 殿

ファクス(JSC管理部総務課)

 

2016年1月29日

 

弁護士  山本 志都(連絡担当)

墨東法律事務所

〒 136-0071 江東区亀戸2-28-3 アセッツ亀戸4階

弁護士  戸舘 圭之

戸舘圭之法律事務所  

102-0083 千代田区麹町2-12-13  LYNX麹町7 

 

 初めてご連絡します。

私たちは、2010年9月渋谷区立宮下公園で行われた野宿生活者らの排除に関して、同公園内に居住していた野宿者及び同公園を活動場所としていた複数の団体を原告とし、渋谷区を被告とする国家賠償請求訴訟事件の原告代理人を務めていた弁護士です。上記事件については、2015年3月13日、東京地裁において、公園の全面封鎖が行われた当日、野宿者が渋谷区の職員らが有形力を行使して排除したことについて違法性を認め、公園のネーミングライツ契約などについても地方自治法上の違法性があるなどとする内容の原告勝訴判決があり、同年9月17日、東京高裁は被告渋谷区の控訴を棄却し、地裁判決が確定しています。

 

1月27日早朝、貴法人の職員らが、多くの警備員を引き連れて、明治公園の3ヶ所の出入り口の封鎖を強行し、貴法人から委託を受けたと思われる業者が、封鎖のための工事、さらに、霞岳広場にある公衆便所および園内の水道と電気を止める作業を行いました。

 明治公園内には数名の野宿生活者が暮らしています。貴法人は、これまでこれらの公園住人に「住んでいる人がいる間は工事をしない」「生活に影響のある工事について事前に説明をする」「話し合いで解決する」と約束してきたと聞いています。しかし、貴法人が委託した業者によって行われた工事は、野宿者の居住区と公衆便所を行き来する通路に、クレーン車で単管を組んだ鉄柵を吊り下げて、工事の強行に反対し話合いを求める住人らと応援有志の頭上をかすめるように設置しようとするなど、きわめて危険なものでした。また、ライフラインの切断は住人らの生死と直結する問題ですが、事前の説明はありませんでした。貴法人の約束は全く反故にされています。

 

 貴法人が、野宿生活者との話し合いを行わずに、その意思に反して強制退去を行うことは、きわめて重大な人権侵害です。明治公園に暮らす住人たちは、2013年の「東京オリンピック」決定以降、新国立競技場関連工事を理由に、東京都によって、二度の園内移転をしいられてきました。通路の封鎖、ライフラインの切断は、これら野宿生活者を実質的に強制排除するものであり、決して許されません。

 新国立競技場計画そのものがいったん白紙撤回され、着工時期が来年1月に変更になっています。また、同計画をめぐっては前案の盗用疑惑が発覚して、再度の計画変更もありうると報じられています。野宿生活者の居住している明治公園の取壊し工事を、新国立競技場建設に先行して行う必要は全くなく、話し合いを行う時間も十分にあるはずです。

 

 前述した宮下公園をめぐる判決内容にてらし、工事実施を理由にして野宿生活者を強制力により排除することは違法です。今後、貴法人あるいは貴法人が委託した業者が決してそのような行為を行わないよう、強く求めます。

 また、野宿生活者らから昨日申し入れのあった、①話し合いの再開、②話し合いによる解決がなされるまでの明治公園取り壊し工事の停止、③通行禁止、公衆便所の水道や電気の停止などの措置の即刻停止 ④27日に設置した工作物の即時撤去 について、貴法人が責任をもって検討し、受け入れるよう、要請します。

 

 なお、本件工事の強行、野宿生活者を実質的に排除したことについては、その法的根拠をめぐっても大きな疑義があります。法的根拠に関連する以下の諸点について、3日以内に書面で回答をいただけますようお願いします。

(1)貴法人は、野宿生活者が居住する明治公園内の土地について、いかなる法的権利を有しているのでしょうか。根拠もあわせてお示しください。

(2)1月27日に行われた出入り口の封鎖や公衆便所の水道や電気を止める措置は、東京都の指示によるものですか、それとも貴法人の判断で行われたものですか。東京都の指示によるものであれば、担当部署をお教えください。貴法人の判断で行われたものであれば、そのような措置を行うのは、貴法人の有するいかなる権限に基づくものなのかご説明ください。

(3)1月27日には、野宿生活者の友人や知人等の関係者の、出入り口からの排除が強制力を用いて行われましたが、これは貴法人の有するいかなる権限に基づくものですか。

(4)貴法人は、明治公園内の野宿生活者の存在を事前に認識していましたが、これらの野宿生活者に対して、今後、どのような対処を行っていくつもりなのか。東京都との間ではどのように連携をとっていくお考えですか。

(5)1月27日の工事は「明治公園橋等とりこわし工事」あるいは「下水道撤去工事」どちらに含まれるものでしょうか。あるいは、それとは別の工事に含まれるものなのでしょうか。

(6)貴法人が行うことを予定している、明治公園内の野宿生活者に影響を与えることが想定される工事、具体的には「明治公園橋等とりこわし工事」「下水道撤去工事」あるいはその関連工事について、委託業者名、契約締結日、工事期間、工事内容をそれぞれお示しください。2015年12月21日には、貴法人担当者は「委託業者を交えて改めて工事説明会を行う」旨説明していたようですが、工事説明会は、いつ行う予定ですか。

 

 ご対応、よろしくお願いいたします。

 

以上

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「日本におけるGoogleインパクトチャレンジ」のグランプリを受賞した事業「CRIMELESS」についての意見書

特定非営利活動法人Homedoorおよびグーグル株式会社に対し、「日本におけるGoogleインパクトチャレンジ」のグランプリを受賞した事業「CRIMELESS」についての意見書を送りました。
《PDFダウンロード》
http://www.evernote.com/…/…/2e05651ede71a7182c922d4432d82fe2
・・・
2015年3月30日

特定非営利活動法人Homedoor
理事長 川口 加奈 様

グーグル・アイルランド社(Google Ireland Ltd.)御中

グーグル株式会社
代表取締役 ロバートソン三保子 様

グーグル本社(Google Inc.)
CEO  ラリー・ペイジ 様

     東京都新宿区四谷3-2-2TRビル7階
     マザーシップ司法書士法人内
     ホームレス総合相談ネットワーク
     代 表 弁護士 森  川  文  人
     連絡先 115-0045東京都北区赤羽2-62-3
     事務局長代行 後閑一博
     電話03-3598-0444/FAX03-3598-0445
    
意 見 書
第1 要請の要旨
1.  米国グーグル本社(Google Inc.)、グーグル株式会社及びグーグル・アイルランド社(Google Ireland Ltd.)に対し、特定非営利活動法人Homedoorが提案しグーグル・アイルランド社が主催して「日本におけるGoogleインパクトチャレンジ」のグランプリを受賞させた事業「CRIMELESS」について、その事業化を推進させないことを強く求める。
2.  特定非営利活動法人Homedoorに対し、グーグル・アイルランド社が主催する「日本におけるGoogleインパクトチャレンジ」のグランプリを受賞した事業「CRIMELESS」について、その事業を実施しないことを強く求める。

第2 抗議及び要請の理由

ホームレス総合相談ネットワーク(以下「当ネットワーク」といいます。)は,ホームレスの方への法的支援を行う目的で2003年に結成された団体であり,路上でのホームレスの方への法律相談等を通してホームレスの方の自立への支援や人権の擁護に取り組んでおります。

グーグル・アイルランド社(Google Ireland Ltd. 以下、「グーグル・アイルランド社」といいます。)は、日本におけるGoogleインパクトチャレンジ(以下「インパクトチャレンジ」といいます。)と称して「日本の特定非営利活動法人、公益法人、社会福祉法人がテクノロジーを活用して世界を変えるプロジェクトを提案し、5000万円の支援金を獲得できるチャンスです。」という呼びかけを行いました。
米国グーグル本社(Google Inc.以下「グーグル本社」といいます。)とその日本法人であるグーグル株式会社(以下「グーグル日本法人」と言います。)は、インパクトチャレンジの6人の審査員の中に、グーグル本社のフィランソロピー部門を担う「Google.org」の執行役員であるジャクリーン・フラー氏と、グーグル日本法人執行役員 CMO、アジア太平洋地域 Google ブランドディレクターである岩村水樹氏が入っていることからも明らかなように、インパクトチャレンジに深くかかわり、これを実質的に運営し、推進する立場にある企業です。毎日新聞のサイトが「インターネットの検索大手グーグルが日本の非営利団体を対象にテクノロジーで社会をよくするアイデアを公募した『Google インパクトチャレンジ』の授賞式が26日、東京都内で開かれた。」と報道しているように、インパクトチャレンジの実質的な主催者はグーグル本社とグーグル日本法人であると社会的に認識されております。

特定非営利活動法人Homedoor(以下「貴法人」といいます。)は、インパクトチャレンジに応募し、2015年3月26日、グランプリを受賞しました。

貴法人が提案した内容は、インパクトチャレンジのホームページによれば、以下のとおりです。
「GPSによる治安維持とホームレス雇用の両立/位置情報システムを活用し、犯罪に関する統計、市民からの要請、目撃情報をマップ化します。その情報に基づき、防犯パトロールを行います。/また、統計やアプリで市民から寄せられるパトロール要請に基づき専用自転車で出動する仕事をホームレスの人のために創出します。/「ホームレスの雇用問題」と「夜間帯に女性への性犯罪が多発している問題」の同時解決に取り組みます。/5年以内に日本の犯罪率を10%減少させ、ホームレス4,000人(全体の約50%)に雇用創出を目指します。」
また、貴法人のホームページによれば、貴法人の提案(以下「CRIMELESS」といいます。)は以下のとおりです。
「Homedoorでは、缶集めと同等の労力で収入を向上できる仕事を考えました。「CRIMELESS」です。路上脱出の際、ただでさえ、色々な負担がおっちゃんたちにはかかるので、今までの仕事の延長でできる、馴染みの深い仕事であることがポイントです。/CRIMELESSでは、暗い夜道を歩くのが怖い人から寄せられる携帯アプリからのパトロール要請や、犯罪統計、GPSを駆使した防犯ルートを、特別な訓練を受けたホームレスの人が、缶集めの要領でパトロールします。/運営資金は、地元企業からの協賛金やパトロール要請の利用料でまかないます。CRIMELESSで働きながらお金を貯め、路上脱出を目指します。」

ホームレスの雇用問題を解決するとしていますが、貴法人が提案しグーグル・アイルランド社がグランプリを受賞させたCRIMELESSについては、以下の構造的な問題があります。
第一に、危険で困難な業務であることの配慮が欠けています。
CRIMELESSにおいて提案されているのは、ホームレスの方による公園、道路等の公の場所の警らです。これは、本来的には警察業務ですから、CRIMELESSはいわゆる私設警察として実施するものとなります。
警ら業務は、警視庁等の警察組織においても、「著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他著しく特殊な勤務で、給与上特別の考慮」がなされている特殊勤務手当の対象となる業務です。
前記貴法人ホームページでは、「今までの仕事の延長でできる、馴染みの深い仕事」と記載されていますが、全くの誤解です。ホームレスの方に必ずしも適性があるわけではなく、ホームレスの方に雇用を限定する意味も全くありません。かかる事業は、相当の給与を支払って、偽装請負ではなく雇用することによって実施されなければなりません。しかし、「運営資金は、地元企業からの協賛金やパトロール要請の利用料でまかないます。」とされており、給与保証が期待される状況ではありません。
さらに、警らは警察組織の業務ですから警察組織との協力のもとで実施していくことになると思われます。それをホームレスの方に限定して実施すれば、実質的に警察組織の支配下にホームレス状態の人を置いて、警らという危険な業務をホームレス状態の人に押し付けることとなります。ホームレス状態であること自体を犯罪視する風潮(地方自治体で制定される缶集めを禁止する条例等)が強まっているなか、立場の弱い者を警察組織の手先として使役するいわゆるかつての「放免」(検非違使の下部として犯罪人の捜索等に当たった釈放された囚人)を想起させるものです。
第二に、「CRIMELESSで働きながらお金を貯め、路上脱出を目指します」となされていることから、CRIMELESSはホームレスの方をホームレス状態のまま、働かせようとしています。自助を前面にうちだすことは、当事者に自己責任であることを強調する活動といえます。本来利用可能である社会福祉制度について情報提供したり利用を支援したりせずにホームレス状態のままで働かせようとするその態度は反福祉といえます。
またCRIMELESSで雇用されるにあたって、住居の提供がないこと自体が雇用者の責任を果たしていないといえます。
第三に、CRIMELESSによって、CRIMELESSに参加しない多くのホームレスの方たちが危険にさらされることとなります。前記のとおり各地で缶集めが禁止されていくなどしてホームレス状態であること自体が犯罪視される風潮が強まるなか、CRIMELESSで警らするホームレスの方によって、その他のホームレスの方が公の場所から排除されていくことになりかねません。
また、ホームレスの方が警察組織の手先として警らしていると犯罪者に周知されれば、警らしていないホームレスの方はもちろん、警らしていないホームレスの方も犯罪者に接することで生命身体に危険が及ぶこととなります。
CRIMELESSによって、ホームレスの方はますます身の危険を感じ怯えながら生活していくこととなります。
以上3点は、CRIMELESSという事業の本質において問題となる点です。
CRIMELESSは、低賃金で路上生活を放置したままなされる、ホームレスの方を使役した警らであって、ホームレスの方の自立への支援や人権の擁護に反するものとなります。
CRIMELESSは社会問題を解決するものではなく、より大きな社会問題を生み出すものとなります。この事業の実施主体となる貴法人の将来における法的責任及び社会的責任だけではなく、この事業の実施のための資金となる賞金を提供して推進しようとすることによって、グーグル3社(グーグル・アイルランド社、グーグル本社、グーグル日本法人)の将来生じ得る法的責任及び社会的責任もきわめて大きいものだと当ネットワークは認識しております。

よって、当ネットワークは、CRIMELESSについて全く許容できませんので、それを表明し、CRIMELESSにかかる事業を実施しないことを強く求めます。

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渋谷区の行う炊き出し等に対する廃除についての当団体の見解

情報によると、渋谷区で共同炊事等の支援活動に対する廃除が行われているようだ。あってはならない暴挙だとしか言いようがない。
我々は、2012年6月11日同じく渋谷区が行った同時多発廃除に対して、2013年3月21日に日本弁護士連合会宛「人権救済申立」を行っている。
その内容の一部として「支援団体を廃除することにより、ホームレス状態の人々の『生きる手段』(これは、生活の手段ではなく、生命・身体を維持する手段である。)を奪うという構造である。行政の生活困窮者対策の不足を補って真摯に活動しているボランティアに牙をむけたという点で著しく相当性を欠く行為である。」と、炊き出し等の支援の廃除について厳しく指摘し、日弁連の調査結果、警告等の措置を待っているところである。
にも関わらず、昨年に引き続き本年も福祉事務所が閉鎖される年末を狙って行われる廃除であり、強い憤りを覚える。
なお、東京都福祉保健局も「公園管理部局と福祉事務所の連携が取れていないのであれば問題である。」と見解を示している(12月14日アップロード参照)。
リンクは、2012年6月11日に行われた同時多発廃除に対する人権救済申立であるが、主張する違法不当はなにもかわらない。一点、厳冬期かつ長期の役所閉庁中の廃除であり、悪性は極めて高いと糾弾せざるを得ない。



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さまざまな事情で住民登録がない者の選挙権を保障するよう求める意見

ホームレス法的支援者交流会(代表:木原万樹子・後閑一博)は、衆議院解散選挙が取りざたされる中、内閣府・法務大臣に対して、ホームレス状態、DV被害、長期入院などの事情により住民登録がない有権者が、その選挙権を行使しうるよう必要な措置を執ることを求める要望書を執行しました。PDFは⇒要望書


同団体は、これまで、①平成21年7月11日参議院選挙、②平成24年12月16日衆議院選挙、③平成25年7月21日参議院選挙、に併せて、これら住民登録がなく、事実上選挙権行使ができない方を対象とした調査を実施し、「ホームレス上にタイにある方、ネットカフェ難民、DV被害者などが、住民登録ができないがために、選挙権の行使を妨げられている現状は、憲法第44条に反する」と指摘続けています。

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精神科病院への長期入院処遇改善の要望書

 関連団体、医療扶助・人権ネットワーク(代表:山川幸生)は、栃木県の特定の精神科病院に入院する患者からの要請により、平成2412月から本日までに25人の退院に関与してきた経験から、主に東京都内の複数福祉事務所が、

(1)  本人の意思に反して、そもそも県外の病院であることを知らせず、

(2) 都内には多数の精神科病院があり、遠方の栃木県の精神科病院でなければ治療できない疾病ではないにもかかわらず、

(3)  任意入院でありながら閉鎖病棟での処遇が常態化しており、及び本人からの退院の希望があることを知りながら、

(4)  当ネットワークが関与した場合には、入院患者の多くが短期間の内に退院していることから、そもそも入院継続の必要性さえ疑われるなか、

(5)  入院患者に対する面会をしないなど、実態把握を怠り

(6)  必要以上に長期入院をさせていたのではないか

との懸念があり、その懸念は、憲法第25条、同13条の観点からも問題があり、生活保護法、同実施要領等に照らしても不当なのではないかと思料し、生活保護法第23条の監査及び指示を行うように厚生労働省及び当該病院への入院を処遇した生活保護の実施機関のある東京都・神奈川県・栃木県に対して要望書を提出しました。

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