2020年3月16日要望書(コロナウイルス感染症の拡大に関する「緊急生活保護ホットライン」の結果を受けて)
内閣総理大臣 安倍晋三 殿
厚生労働大臣 加藤勝信 殿
内閣府特命担当大臣(経済財政)西村康稔 殿
財務大臣兼内閣府特命担当大臣(金融)麻生太郎 殿
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2020(令和2)年3月16日
ホームレス総合相談ネットワーク
同事務局長 弁護士 髙 田 一 宏
弁護士 山 川 幸 生
司法書士 後 閑 一 博
司法書士 笠 井 真 悟
司法書士 力 丸 寛
弁護士 猪 股 正
弁護士 小 林 哲 彦
司法書士 吉 田 真理子
司法書士 半 田 久 之
司法書士 加 藤 裕 子
司法書士 後 藤 三樹子
社会福祉士 藤 田 孝 典
第1 要望の趣旨
1 国は、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対策の一環として、生活資金の逼迫・枯渇を原因とする生活保護申請については、生活保護法第4条第3項の「急迫した事由がある場合」に該当するものとして幅広く認め、速やかに保護を開始するよう、保護の実施機関に通知し、周知徹底してください。
2 国は、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、銀行等の金融機関に対し、住宅ローン・自動車ローン・カードローン等の各種借入債務の支払猶予を行うよう、早急に要請してください。
3 国は、新型コロナウイルスの影響による休業、休暇その他労働時間の減少による賃金の減少に対する助成金(給付)について、新型コロナウイルスの影響による賃金の減少全般に適用するよう適用範囲を拡大するとともに、労働者等が直接申請できるように制度を変更してください。
第2 要望の理由
1 緊急生活保護ホットラインの報告
ホームレス総合相談ネットワークは、2003(平成15)年2月に発足した任意団体であり、弁護士・司法書士を中心とした100名の相談員で構成されています。
主な活動内容は、ホームレスの方々への相談活動(電話相談や出張相談を含む)を中心とする活動を行なっており、ときには生活保護法の運用や生活困窮者自立支援法に基づく自立支援等の貧困問題に関する諸政策が適切になされるよう注視・提言するといった活動を日々行なっております。
昨今、新型コロナウイルス感染症の影響等により、収入等が減少したことにより、事業者・消費者問わず、家計における生活資金が逼迫・枯渇する現象が生じております。
このような事態に対応するため、ホームレス総合相談ネットワーク及び困窮者支援にかかわる弁護士・司法書士・社会福祉士(以下、「当団体」という。)は、2020(令和2)年3月15日、緊急生活保護ホットライン(以下、「ホットライン相談」という。)を実施しました。
ホットライン相談には、全国から、1日だけで120件の電話相談が寄せられ、新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの方々が生活に困っていることが分かりました(詳細については、追って報告いたします)。
2 急迫保護の活用
ホットライン相談の多くが生活資金の逼迫・枯渇を訴えるものであり、当団体としては、相談者らの世帯収入が最低生活費を下回るものについては生活保護制度を利用できるものと考えますが、ホットライン相談の中には、住宅ローンを支払っている世帯や、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける以前の平常時の収入は生活扶助基準を上回っている世帯からの相談も複数寄せられ、相談者らが生活保護制度の申請を躊躇してしまう状況が伺えました。
しかし、相談者らの世帯に現金がなく、一時的に世帯収入が減少して最低生活費を下回るものである以上、その生活の保障としては、生活保護制度の利用が最も有効です。ローン付きか否かに関わらず、不動産・自動車等の資産を所有している場合を含め、預金等の即時活用できる資産・能力がなく、かつ手持ち現金が乏しい場合には、急迫した事由があるもの(生活保護法4条3項)として幅広く認め、保護を開始すべきです。
厚生労働省は、この点を明確にし、生活に困窮している世帯の保護を積極的に行うよう、全国の福祉事務所に対して通知すべきです。
3 金融機関等に対する支払猶予の要請
ホットライン相談においては、収入の減少に加え、住宅ローンやカードローン等の各種ローンの請求がさらに家計を圧迫しているという相談が数多く寄せられました。中には、収入の激減に伴い、世帯の生活費を確保するだけで精一杯の状態であり、とても各種ローンの支払いまでは手が回らないとの相談も相当数寄せられました。
一時的な収入減少のため急遽資金繰りが悪化したような場合には、すぐに自己破産の申立て等の法的整理を行うのは適当ではありません。債権者らが各種ローンの支払いを一時的に猶予する等の対応を行うことで、期限の利益の喪失という事態に至ることを防止することができ、家計のやり繰りを後押しすることができると考えられます。
そのため、国が銀行を始めとする金融機関等に対し、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、各種ローンの支払猶予を積極的に認めるよう要請すべきです。
なお、当団体の上記要請は、経済的弱者の生活を崩壊させないことを目的とするものであり、国が全国銀行協会及び各金融機関等に対し、各種ローン等の支払猶予を行うよう求めることで十二分に達成できると考えております。上記要請は、新型インフルエンザ等特別措置法58条1項の「政令に基づく金銭債務の支払いの延期及び権利の保存期間の延長について必要な措置」を求めるものではなく、ましてやそのために「緊急事態宣言」(同32条1項)を出すことについても当団体は断固反対いたします。
4 労働者からの賃金等保証制度にかかる支給申請を認める制度設計を迅速に行うこと
相談では、国が実施している賃金に関する助成金制度は、学校の臨時休業等の場合に限られており、適用範囲が狭いという声が上がっています。
例えば、福祉施設に勤務している者が咳などの症状(ただし、新型コロナウイルス感染症の感染の有無は検査していないため、原因がわからないもの。)があるため自主的に休暇を取るような場合には、現行の助成金制度は全く適用の余地がありません。そこで、新型コロナウイルス感染症のために賃金が減少したすべての人に対し、賃金の減少分の補償が行われるよう、制度を改める必要があります。
また、すべての非正規労働者や、請負や業務委託等の形式で契約しているフリーランスの者(以下、正規労働者を含めて「労働者等」と総称する。)が特に影響を受けやすいことに鑑み、すべての労働者等について減収分を確保できるようにする必要があります。
さらに、賃金補償の給付においては、事業主からの助成金の申請だけでなく、労働者等が直接給付を申請することもできるよう制度を変更すべきです。事業主からの申請としたのでは、そもそも申請するかどうかが事業主次第ということになりかねず、また特定の事業主の下で労務等を提供する形態ではない労働者等が制度の対象外となってしまうからです。実際、相談者の中には、自分に助成金が適用されることになっても、自分の勤務先は申請をしてくれるような優しい会社ではないから、今の助成金制度のままでは自分の収入減は全く補償されないだろうという嘆きの声が上がっています。
新型コロナウイルス感染症対策としての休業や自粛等による生活資金の補償は、国民生活及び国民経済に及ぼす影響を最小限に抑えるための必要な措置であり、対策を進める政府の責任で的確かつ迅速な実施に万全を期すべきものです(新型インフルエンザ等対策特別措置法3条1項、同6項参照)。
政府の責任によって、生活が困窮・逼迫している労働者等の元に早急かつ確実に生活資金が届くことが重要であり、そのためにも労働者らからの直接申請を認めるべきです。
5 結語
よって、当団体は、関係機関に対し、要望の趣旨のとおりの対応を求めます。
以 上