無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準案に関する意見
2019年(令和元年)7月5日
厚生労働省社会・援護局保護課保護事業室 御中
ホームレス総合相談ネットワーク
代 表 弁護士 森川 文人
事務局長 弁護士 高田 一宏
当ネットワークは、ホームレスの方への法的支援を行う目的で2003年に結成された団体であり、路上でのホームレスの方への法律相談等を通してホームレスの方の自立への支援や人権の擁護に取り組んでいる。当ネットワークは、今回パブリックコメントに出された「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準案に関する意見の募集について」(案件番号495190074)に対して、以下の通り意見を提出する。
第1 意見の趣旨
1 無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準案(以下「省令案」という。)第2条1号ハ、第7条1項4号、第9条2項1号、第14条のサービス提供に関する記載部分、第16条1項7号、及び同条2項7号をそれぞれ削除すべきである。
2 省令案第3条3項の「基本的に一時的な居住の場であることに鑑み」という文言は堅持し、同条4項の「独立して日常生活を営むことができる入居者」の後に「(介護保険法、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等に基づいて提供されるサービスを利用して独立して日常生活を営むことができる場合も含む。)」を付加する。
3 省令案第6条1項の「若しくは社会福祉事業等に二年以上従事した者又は同等以上の能力を有すると認められる者」を削除する。
4 省令案第12条6項1号ハただし書き、第19条ただし書き、及び附則第3条を、それぞれ削除する。
5 省令案第26条は、「入居者の金銭の管理は当該入居者本人が行う。」に変更し、無料低額宿泊所による金銭管理は認めないものとすべきである。
第2 意見の理由
1 有償サービスの提供について
今次社会福祉法改正により、無料低額宿泊所も社会福祉住居施設において「生計困難者に対して、その住居で衣食その他日常の生活必需品若しくはこれに要する金銭を与え、又は生活に関する相談に応ずる事業」(同法2条3項1号)を行うことができるようになったが、同事業は、「生活必需品もしくはこれに要する金銭」を「与え」る事業又は「生活に関する相談に応ずる事業」であり、金品もしくはサービス提供に対する対価を受け取ることは想定されておらず、許されない。
ところが、省令案では、逆に、利用料を受領してサービスを提供する施設を無料低額宿泊所の範囲に含めており、力関係及び情報に大きな格差がある事業者に抱え込むような有償サービス提供を認めると、利用者の独立を著しく妨げることになるので、サービス提供が必要な場合には外部の第三者においてなされるべきであり、省令案第2条1号ハ、第7条1項4号、第9条2項1号、第14条のサービス提供に関する記載部分、第16条1項7号、及び同条2項7号をそれぞれ削除すべきである。
2 居宅保護の原則
無料低額宿泊所は生活保護利用者の数の割合がおおむね50%以上とされていることからすれば(省令案第2条1項ロ)、生活保護法第30条1項に規定する居宅保護の原則が強く要請されるところであり、省令案第3条3項のように無料低額宿泊所が一時的な居住の場であることを明らかにした上で、力関係及び情報に大きな格差のある利用者の終の棲家にされないように同条4項を変更して多くの者が早期に離脱できるようにすべきである。
3 施設長の資格要件
特別養護老人ホーム、障害者支援施設、婦人保護施設等の施設長については、資格要件が省令に規定されており、例えば、特別養護老人ホームでは、①社会福祉主事資格者、②社会福祉事業に2年以上従事した者、③全社協講習修了者とされており、無料低額宿泊所においても、高齢者、障害者の利用が多く見込まれることを考えれば、施設長要件は明確にすべきである。
かつて劣悪施設において生活保護を利用しながら施設に入所している者を低賃金で他の施設の施設長をさせていたという事例も仄聞している。
省令案第6条1項では「社会福祉事業等に二年以上従事した者」「同等以上の能力を有すると認められる者」と規定されており、不明確であり、これでは施設長資格要件としては全くのザルでしかないので、同部分は削除すべきである。
4 施設の面積基準等について
無料低額宿泊所が一時的な居住の場であるとしても、単身者の最低居住面積水準(住生活基本法に基づいて定められた住生活基本計画)である25平方メートルを満たさないばかりか、例外とはいえ4.95平方メートル(省令案第12条6項1号ハただし書き)は狭すぎるものであり、さらに期限が全く付されない経過措置として3.3平方メートル(省令案附則第3条)とすることは容認できず、省令案第12条6項1号ハただし書き及び附則第3条について、強く削除を求めるものである。
また、入浴回数について、近時の夏の暑さは異常であり、真夏にも1週間に3回しか入浴できないとなると、衛生上及び健康上、多大な支障が生じるものであるから、1日1回の頻度の提供に例外を付すべきでないから、省令案第19条ただし書きを削除すべきである。
5 利用者の金銭管理について
力関係及び情報に大きな格差のある事業者において、利用者の金銭管理がなされると、ますますその力関係に大きな格差を生じることとなり、事業者において抱え込みがなされ、利用者の不満を押さえ込むこととなる。施設の劣悪化を強める方向に働くものであって、到底許容できない。金銭管理の支援が必要な利用者に対しては、社会福祉協議会が提供する日常生活自立支援事業等の利用によって対応すべきである。
以上