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「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」の見直し(案)についての意見

「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」の見直し(案)についての意見

 

ホームレス状態にある人のほとんどは、「健康で文化的な最低限度の生活」をはるかに下回る生活水準で暮らしている。こうした人々を支援する施策は、まず第一に、憲法25条(生存権)が保障する健康で文化的な最低限度の暮らしを確保すること、とりわけ、居宅を失っているのであるから、速やかに居宅を提供することでなければならないはずである。これらを端的に行うことができる制度が、生存権保障を具体化した生活保護である。
 しかしながら、現行の「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」(以下、「基本方針」という。)は、生活困窮者自立支援法による生活困窮者一時生活支援事業(シェルター、自立支援センターへの入所など)などの支援が必要とするなど、生活保護の利用を推進するものとはなっていない。
 今回の見直し案でも多少の表現の変更はあるものの、現行の記述内容が基本的に維持されている。
  第1・第5段落では「生活保護が必要な者には、確実に生活保護を適用しつつ、生活保護の受給により居住場所等の確保に至る間、あるいは就労等による自立や地域において日常生活が継続可能となるまでの間は、困窮者支援法による一時生活支援事業をはじめとした就労や心身の状況、地域社会からの孤立の状況などに応じた包括的かつ早期の支援が必要である。」などとして、生活保護の利用を掲げながら、一方で生活保護とは異なる制度である自立支援センターへの入所を含む一時生活支援事業による「支援」を必要だとしている。この記述は、生活保護の申請を断念させるように仕向け、自立支援センターへの入所をすすめる違法な「水際作戦」を助長することにつながりかねない。
 また、施設収容に関しては、第3・2・(7)・ア・(イ)の「居所が緊急に必要なホームレスに対しては、 シェルターの整備を行うとともに、 無料低額宿泊事業 (略) を行う施設を活用して適切な支援を行う。」との記述、第3・2・(7)・イ・(イ)の「ホームレスの状況(日常生活管理能力、金銭管理能力等)からみて、直ちに居宅生活を送ることが困難な者については、 保護施設や無料低額宿泊事業を行う施設等において保護を行う。」との記述も、維持されている。ホームレス状態の人々を施設に収容して、社会から隔離しようとする発想が根底にみられる。
 そもそも、「居所が緊急に必要なホームレス」は、生活保護法25条1項の「要保護者が急迫した状況にあるとき」に該当する。よって、職権保護により速やかに生活保護を開始しなければならないはずである(もちろん、一時生活支援事業を検討すべき場合にはなりえない。)。保護を開始した場合には居宅保護の原則(生活保護法30条1項本文)が適用されるので、施設入所ではなく、居宅が提供されなければならない。
 当団体は、これらの記述が今回の基本方針見直しの対象になっていないことに断固反対する。基本方針には、ホームレス状態の人々の生活再建のために生活保護の利用を大いに推進するとともに、施設収容主義を排し、速やかに居宅に居住して暮らせるような施策を盛り込むべきである。したがって、基本方針は、その基本姿勢を抜本的に見直す必要がある。

また、そもそも、基本方針の策定や改定に当事者の参画がなされていないことも問題である。すなわち障害者分野で理念として掲げられ、現実にそれに沿った運動や実務がなされている「Nothing About Us Without Us(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)」は、ホームレス問題でも当然妥当するものであるところ、今回の基本方針の改定に際しては当事者の参加が検討された形跡は認められない。基本方針の改定に当事者の参加が要請されることに加え、基本方針内の支援計画の作成に当たっては当事者が参加して支援計画が作成されることも明記すべきである。これは当事者の意思が無視される支援計画など無意味であり、むしろ有害だからである。

また、当団体としては、国が実施するホームレス調査のあり方にも疑問を持っている。

すなわち、平成28年10月に実施された「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)は、同年1月に実施した概数調査に基づき、目標数を設定しているところ、この概数調査自体昼間実施されたものであり、実際のホームレスの数を適切に把握していたとはいえない可能性がある。現に、民間団体による夜間調査で、自治体の把握している数の約3.3倍ものホームレスがいたことも報告されている。また調査方法も面談とあるが、対象者も事前に選定告知されており、恣意性も拭えず、適切な調査がされたとは言い難い。

ホームレスの数についての調査を行うのであれば当然ながら夜間に行うべきであるし、行政のみで精密な調査を行うことが難しいのであれば、民間団体や地域のホームレス支援団体に協力を仰ぎつつ、可能な限り正確な調査を心がけるべきである。

最後に、反排除についても言及しておきたい。基本計画に謳われるように、基本的人権の尊重は、日本国憲法の柱であり、民主主義国家の基本である。しかし、これらの人権を侵害する行為が行政によって行われてきた事実に目を背けてはならない。

具体的には、渋谷区が、平成22年9月15日早朝、渋谷区立宮下公園にホームレス状態にある人がいることを知りながら、多数の職員・警備員において公園をフェンスで取り囲み、公園内にいるホームレス状態の人を担ぎ上げるなど実力で排除した。この事実は、裁判により認定され、国家賠償が認められている(東京地裁平成23年(ワ)第13165号)。また同じく渋谷区は、平成24年6月11日早朝、渋谷区美竹公園、渋谷区役所人工地盤下駐車場(地下駐)、渋谷区役所前公衆便所を一斉に閉鎖し、三か所で生活するホームレスの強制立ち退きを行った。この事実は、第二東京弁護士会により認定され、人権侵害に当たると勧告されている。これら渋谷区の行ったホームレスに対する居宅保護の開始など代替措置の伴わない強制排除は、憲法及び世界人権宣言、社会権規約11条、自由権規約17条に反するもので、人権侵害に当たるものである。上記の渋谷区の事例は、当団体が少なからず関与した事例であるが、ホームレス状態の人の生活の基盤であるテントや荷物に対する不法な干渉又は攻撃は、渋谷区以外においても、頻繁に行われている(なお、念のため付言すると、渋谷区はホームレス支援等について、区に対して意見する又は協議を要請する場合に生活福祉課長を窓口とする旨を当団体に回答しており、当団体としては引き続き適切なホームレス支援がなされるよう生活福祉課長及び関係機関と協議を重ねていく所存である)。

以上のとおり、行政による強制排除、人権侵害が行われている現状において、「ホームレスの人権の擁護に関する事項」には、一番大きな柱として行政による人権侵害を起こさないことの徹底があげられるべきである。東京オリンピックを控え、今後ますますホームレスの強制排除、人権侵害がなされることが懸念される。基本方針を策定するにあたっては、ホームレスの方の意思を尊重し、くれぐれも排除がなされないよう明記することを強く求める。

 

以   上

 

 

 

 

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