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生活保護基準引き下げ方針を撤回する等の要望書

要 望 書

2017年12月27日

内閣総理大臣 安倍 晋三 殿

厚生労働大臣 加藤 勝信 殿

 

生活保護基準引き下げに反対します(緊急ホットライン)実行委員会

代表 森 川   清

 

第1 要望の趣旨

1 厚生労働省は、生活保護利用当事者の真摯かつ悲痛な声を受け止めて、現在進めている生活保護基準の見直し案に基づく生活扶助基準(母子加算、児童養育加算を含む。)の引下げを撤回すること

2 厚生労働省は、生活保護基準の見直しにあたって生活保護利用当事者(以下「当事者」という。)を審議会に参加させ、当事者の意見の聴取および具体的な家計状況の調査を大規模に実施して、当事者の意見および事情を反映させた見直しをすること

3 内閣は、上記生活扶助基準引下げ部分について第1項の撤回に基づいて予算案の変更をすること

 を要望する。

 

第2 要望の理由

1 厚労省案の発表

  厚生労働省は、2017年12月8日に母子加算及び児童養育加算を含む生活扶助基準の引下げ方針を発表し、その後、同月14日付け社会保障審議会生活保護基準部会報告書(以下「報告書」という。)を受けるかたちで、2018年10月から生活扶助を3年かけて最大5%引き下げる方針を示し、見直しにより生活保護費は3年間で160億円とされている。そのうち、母子加算(子一人)については月額約5000円、児童養育加算の3歳未満児については月額5000円の引下げをしようとしている(以上をまとめて「厚労省案」という。)。

  2017年12月22日、内閣は、厚労省案に基づく生活扶助基準引下げを含んだ予算案を閣議決定した。

2 当事者を蔑ろにした厚労省案の問題

  報告書においては、2013年から行われた生活保護基準の大幅な引下げの影響の把握・評価について、生活保護利用当事者(以下「当事者」という。)の生活扶助基準の増減額の割合、家計の支出割合の統計的な推移の報告にとどまっていることが明らかにされている。

  生活保護基準は、生活保護法8条2項により「必要な事情を考慮」することが強く要求されており、必要な事情を把握するためには、当事者などの影響を強く受ける人々の生活実態について大規模なインタビューや家計調査などを実施する必要があるにもかかわらず、いずれも実施されていない。

 また、Nothing About Us Without Us (私たちのことを、私たち抜きに決めないで)という考え方は生活保護においても適用されるべきであって、基準部会の議論に当事者の参加が求められるべきであるが、生活保護においては2017年3月の小田原市生活保護行政のあり方検討会以外に当事者の参加がなされていない。

3 ホットラインの開催

  当事者が蔑ろにされている中で生活保護基準引下げがなされる状況のなか、生活保護問題に取り組む法律家及び市民の有志である我々は、実行委員会を組織し、厚生労働大臣に当事者の切実な生活状況及び意見を伝えるべく、2017年12月26日午前10時から午後7時まで東京・さいたま・大阪で電話13回線により「生活保護基準引き下げに反対します(緊急ホットライン)」を開催した。

 電話は、同日午後7時まで鳴り止まず、多数の電話が寄せられた。

4 2013年引下げの影響

 当事者からは、2013年からの引下げによって、①食事が削られている(中にはおかずがなく白米に醤油をかけて食べることもあるというものも複数あった)、②入浴回数が月に1回になってしまっている、③耐久消費財を購入する資金を保有する余裕が全くなく耐久消費財が壊れてしまったら買い換えられない、④衣服を買う余裕がなくサイズの合わない昔の服を着続けている、⑤冬はコタツだけで暖をとって暖房を使えない、⑥真冬に灯油が買えず肺炎になった、⑦交際費が捻出できず一切外出しない、などの声が寄せられる。

 これらはいずれも日本国憲法が保障する「健康で文化的な」生活とは程遠いものというべきである。

 厚生労働省は、かかる声があることを踏まえて、まずは2013年から行われた生活保護基準の大幅な引下げにより当事者にどのような影響があるかについて徹底的に調査すべきである。

5 今回引下げで保護費が減額された場合にどうするか

  寄せられた声の中には、今回厚労省案により生活扶助基準引下げがなされ、3000円が減額された場合、衣服は普段から買っていないので、食費を削るしかないという意見も多かった。

  また、これまで節約をし続けて、これ以上、生活費のどこを削ったらいいか想像もできないという意見も複数寄せられた。

  中には、3袋100円のうどんを買って毎昼食べているが、いつも素うどんではさびしいので、卵をかけている。今回保護費が減額したら、卵をかけるのをやめるしかないという当事者もいた。それでも数百円しか節約できず、あとはご飯を削る、そこから先は想像できないという意見であった。

 このように引下げ後の自分たちの生活について、想像もできず、自分たちの生活にビジョンを抱けない当事者が複数いる。低所得者との比較によって引き下げようとする厚労省案は、具体的な当事者の生活について、全くビジョンを欠いているというべきである。

6 まとめ

  本ホットラインにおいて、当事者からは「生活していけない」「死んでくれと言われているようだ」「死ぬしかない」「弱いものいじめはしないでほしい」「当事者の声を聞いてほしい」「逆にあげてほしい」など、意見が多く寄せられた。

  厚生労働省は、生活保護利用当事者の真摯かつ悲痛な声を受け止めて、当事者の意見および事情を反映させていない厚労省案に基づく見直しを含めて引下げを伴う生活保護基準の見直しを撤回すべきであり、内閣は、閣議決定した予算案のうち生活扶助基準引下げの部分を上記撤回に基づいて変更すべきである。

   

 

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生活保護基準の引き下げ方針に対する緊急声明

生活保護基準の引き下げ方針に対する緊急声明

ホームレス総合相談ネットワーク

事務局長 高 田 一 宏

 

私たちホームレス総合相談ネットワークは、ホームレス状態にある方たちへの法的支援を行うために、2003年2月に結成されたグループです。メンバーは、弁護士、司法書士、その他専門家、ホームレス問題の支援者などです。

平成291214日開催された社会保障審議会生活保護基準部会(以下「基準部会」)により社会保障審議会生活保護基準部会報告書(以下「報告書」)がとりまとめられたことを受け、緊急に声明を発します。

今でさえ低きに過ぎる、生活保護基準がこれ以上下がることに断固反対します。

その理由は、次のとおりです。

私たちが日常に支援するホームレス状態の人びとは、住居を失い衣食を欠く、絶対的貧困状態にあります。

確かに、ホームレス状態の人の生活実態は、比較対象である一般低所得層たる全国消費実態調査からも除外されていますが、絶対的貧困にもかかわらず、生活保護制度を利用できない/しない、理由を検証する必要があります。

理由の一つには、いわゆる水際作戦と言われる、保護を開始しない/保護は開始するが劣悪施設に収容する、という違法・不当な運用にありますが、特に、注視すべきは、ホームレスであった者もひとたび保護を受ければ、通常の被保護者・低所得者であるものかかわらず、ホームレスであった者として扱われ、劣悪施設に長期にわたり収容される差別(スティグマ)が続くことにあります。

そして、スティグマの存在は、決してホームレス特有の問題ではなことは、国連社会権規約委員会から、20135月最終見解として、「スティグマが高齢者に公的な福祉的給付の申請を思いとどまらせていること」に懸念を示された上で、「公的な福祉的給付に付随したスティグマをなくす観点から国民を教育すること」を勧告されていることからも明らかです。

スティグマの解消という国の責任を果たせていない現状において、単純に第1十分位(低所得者)との比較により、検証すれば、際限なく基準額は下がります。国は、少なからず生活保護が尊厳との引換給付となっている現状を直ちに解消すべきであり、無差別平等に保護が受けられる法の原理を徹底させることにこそ力を注ぐべきです。

以上

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