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高齢者虐待防止法に基づく通報

ホームレス総合相談ネットワークは、やまて企業組合が運営する「新大久保寮」において、高齢者虐待が常態化していると疑われるので、高齢者虐待防止法に基づく通報を行いました。

平成28年8月19日

 

新宿区長 吉住健一 殿

東京都知事 小池ゆり子 殿

厚生労働大臣 塩崎 恭久 殿

 

東京都豊島区池袋2丁目55番13号合田ビル2階

池袋市民法律事務所

通報者  弁護士 髙 田 一 宏

 

東京都北区赤羽2丁目62番3号

通報者(連絡先) 司法書士 後 閑 一 博

電 話 03-3598-0444

FAX 03-3598-0445

 

高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律第7条第2項に定める通報

 

通報の趣旨

 1 新宿区は、中高年事業団やまて企業組合(東京都豊島区南池袋2丁目41番16号/代表理事:新津伸次)が運営する社会福祉法第2条第3項に規定する無料定額宿泊所新大久保寮に入居する高齢者が、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律第2条第4項に定義する虐待を受けないように適切な措置をすることを求めます。

 2 東京都は、新宿区による上記適切な措置がなされるよう必要な援助及び助言を行い、確実に上記措置がなされるよう行政指導を行うことを求めます。

 3 国は地方自治体と連携して、全国で他に同様の劣悪な環境で高齢者を処遇している事例がないか、本格的な実態調査を行い、速やかに調査結果を公表するとともに、同様の事例が発見された場合には地方自治体に対し、適切に指導・監督・指示を行うことを求めます。

 

通報の理由

  通報者らは、路上生活者、ネットカフェ難民等、社会的、経済的困窮のため安定した住居を有しない状態にある方々、生活保護受給者に対し、健康で文化的かつ人間の尊厳を保ちうるために相当程度の生活を送るための法的な支援を行うとともに、その人権を擁護し、違法な差別や偏見を除去することを目的として、弁護士・司法書士らが中心となって設立された団体であるホームレス総合相談ネットワーク(東京都新宿区四谷3-2-2TRビル7階マザーシップ司法書士法人内/代表 森川文人)に所属する弁護士及び司法書士です。

  通報者らは、平成28年8月11日、中高年事業団やまて企業組合が運営する「新大久保寮」(京都新宿区百人町1-8-17)に入居し、あるいは入居していた7名から聞き取りを行った結果、新大久保寮から「高齢者虐待」(「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下「法」といいます。第2条3項)を受けたと思われる3名の者を「発見」するに至ったので、法7条2項に基づき通報します。

  新大久保寮とは、社会福祉法第2条第3項に定める第2種社会福祉事業のうち、その第8号にある「生計困難者のために、無料又は低額な料金で簡易住宅を貸し付け、又は宿泊所その他施設を利用させる事業」に基づき、設置される施設です。 

 新大久保寮は入寮者との間で宿泊所利用契約及び生活サービス契約を締結することになっていますが(甲−1,甲−2)、生活サービス契約の中身は「利用者の希望に応じて」(甲−2、第1条)となっているにもかかわらず、昼食を除き拒絶することが許されない運用になっています。

 サービス内容を拒絶しようというものなら退寮を迫られることになり、退寮の事実がケースワーカーに知れてしまうと生活保護を受けている利用者は保護を停止若しくは廃止されてしまうことを怖れるあまり、サービス内容を受け入れざるを得ない実態があります。

 公知の事実かと思われますが、新大久保寮は主に新宿区福祉事務所に路上生活者が生活保護の申請を行った場合に新宿区福祉事務所が新大久保寮を含めた宿泊所に入ることを保護の実質的な条件としているところがあります(甲3においても、寮生活の注意点として、福祉事務所の担当者からの説明を守るよう書かれています)。

 通報者らはこの点についても強い疑問を有しているところではありますが、このような実態がある以上、生活保護を受けている新大久保寮の利用者は、寮のルールに背くと生活保護を打ち切られるかもしれないという不安をかかえながら生活していくことになります。

 新大久保の利用者は、原則として起床後、午前6時50分から朝食、午前11時50分から昼食、午後4時50分から夕食と決められており、席順や食事のタイミングも決められています(甲3)。また、午前5時から午後5時以外の外出は禁止されており、門限を過ぎると原則として外出することは許されません(甲3)。

 このように日課が決められており、職員の指示に従うことが明記されており(甲3)、入寮者がこのルールに従わないと退寮を余儀なくされ,入寮者が生活保護受給者の場合には、寮のルールに従わないと実質的に生活保護が打ち切られる蓋然性が強いという下では、入寮者は新大久保寮の支配下におかれているといえます。

 そして、新大久保寮は法2条5項の「養介護施設」以外の施設であり、入居者が65歳以上の者であれば入寮という手段によって「養護」しているといえることから、新大久保寮は「養護者」(法2条2項)にあたります。

 4 新大久保寮は、東京都の公表(甲4)によれば、定員80人の施設と登録されていますが、4階建てのビルであり、1階は風呂、食堂、事務所となっており居住スペースはなく、2階は7台のベッドと18台の2段ベッドが置かれ43人が収容可能であり、3階は4台のベッドと18台の2段ベッドが置かれ40人が収容可能であり、4階は談話室があり、3台の2段ベッドが置かれ6人が収容可能です(甲3)。

   概ね満床で運営されていると報告がありますので、約89人を収容しています。その中には、後述する高齢者のほか多数の高齢者が含まれています。

   一人に与えられている居住スペースは、荷物の置き場を含めて、ベッド内だけであり、概ね一畳程度の広さしかありません。ほとんどのが、2段ベッドであり、2段ベッドの上段に居住させられている高齢者もいます。

   建物にエレベータはなく、トイレは各フロアに設置されていますが、食堂、風呂、洗面所、洗濯機は1階にしかなく、喫煙場所は4階にしかありません(甲3)。

   食事は、弁当が支給されますが、年齢や健康状態に応じた食事の提供はありません。

 5 個別の事情について

 養護者による虐待が疑われる高齢者とは、新大久保寮に入所し、ベッド番号***号に居住する、耳が不自由、左目が失明しており、歩行も手すり等がないと困難であるなど、生活日常動作(以下「ADL」)に問題を抱えている84歳の男性(以下、「Aさん」とします。)、同ベッド番号***号に居住する、認知症が疑われ、ADL特に歩行や排せつに問題を抱えている75歳の男性(以下、「Bさん」とします。)、同ベッド番号***号に居住する、認知症が疑われ、ADL特に歩行に問題を抱えている70歳代の男性(以下、「Cさん」とします。)です。

  以下、具体的虐待の内容について述べます。

 養護者のAさんBさんCさんに対する次の行為は、介護ネグレクトが疑われ、法第2条第4項1号ロに当たる可能性があります

(1)  AさんBさんCさんは、ADL特に歩行に問題を抱えているようです。利用契約書では、能力に応じて自立した日常生活を支援することとうたわれていますが(甲1、甲2)、階段までの手すりがなく、階段の昇降に対する援助が行われていないようです。これでは高齢者は日々の生活を送るだけで体力を奪われていき、衰弱する危険があります。にもかかわらず、新大久保寮としてはこれを漫然と放置していることに照らせば、「養護を著しく怠っている」場合にあたるといえます。

(2) AさんBさんCさんは、上記階段の昇降が困難な事情から、1階にある洗濯機を利用することが少ないようです。新大久保寮は、南京虫等毒虫の被害が発生する不衛生な環境であるうえ、自らシーツを洗濯するには、1階で洗濯機による洗濯を行い、4階で乾燥させる必要があり、ADL特に歩行に問題を抱えている各位には困難です。 

(3)  能力に応じて支援されるはずの契約ですが、洗濯の支援はないようで、衛生を維持することができていないようです。したがって、「養護を著しく怠っている」(法2条4項1号ロ)にあたります。

(4) AさんBさんCさんに食事に対する配慮がなされていないようです。食事は弁当であり、揚げ物などが多いと聞いています。高齢になれば、年齢に応じた特別なニーズがあることが一般ですが、食事に選択肢がないので、食事を残すか、ニーズに合わない食品を食べないかを選ばざるを得ず、著しい減食にあたる可能性があります。

 この点について、申し出た場合にはおかゆが提供されるとのことですが(甲3)、咀嚼能力が低下していたり、嚥下障害を抱える高齢者の場合には、おかゆのみを与えられていることになり、栄養状態がかなり懸念されます。

(5) Bさんは、排せつに問題を抱えているようです。能力に応じて支援される契約ですが、排せつ等の支援はなく、居室が汚れているようです。劣悪な衛生環境下で生活することを強制している点において、「養護を著しく怠っている」(法2条4項1号ロ)にといえます。

(6) Aさんは、入居者から経済的虐待を受けているようです。 

ア 新大久保寮としては、Aさんが、賭け将棋の被害にあい、生活保護金品のほとんどを入居者から搾取されている実態を他の入居者からの報告により知っているはずです。甲3には、「けんかやもめごとは、ささいなことでも寮生同士で解決しようとせず、職員にお知らせください」と書かれており、職員は寮生の生活が能力に応じて自立した日常生活を営むことができるよう配慮する義務を負っている(甲1第1条、甲2第1条)以上、この場合には賭け将棋をやめさせ、Aさんが搾取されないよう防止策を講じる義務があるはずです。にもかかわらず、養護者が経済的虐待の被害者であることを放置していることは、「養護者が当該高齢者の財産を不当に処分すること」(法2条4項2号)にあたり,他の利用者と共同してAさんを虐待したと評価され得るものです。

 イ 次に養護者のAさんBさんCさんに対する次の行為は、法第2条第4条第2号経済的虐待にあたる疑いがあります。前述のとおり、養護者は、高齢者であるAさんBさんCさんと、宿泊所利用契約及び生活サービス契約を結び、宿泊所契約は、わずか1畳程度のスペースを利用させるにとどまるにかかわず、56,400円(居室費月額32,700円、光熱水費7,200円、基本サービス費16,500円)もの多額な宿泊料を得、生活サービス契約は、衛生の維持すらしておらず、著しい減食の疑いがあるにもかかわらず、月額48,000円(朝食12,000円、昼食15,000円、夕食18,900円、日用品2,100円)もの高額な報酬を得ています。

   この行為は、法第2条第4項第2号「高齢者から不当に財産上の利益を得ること」にあたる可能性が極めて高いと疑われます。

   6 ところで、先に述べたとおり、新大久保寮は主に新宿区福祉事務所に路上生活者が生活保護の申請を行った場合に新宿区福祉事務所が新大久保寮をあっせんしているところがあり、新宿区長にのみ通報したのでは、適切な保護措置が実施されない蓋然性があります。

     そのため、東京都は法19条に基づき、新宿区に対し必要な助言を行い、上記高齢者の保護が確実になされるように取りはからってください。その際、新大久保寮には、多数の高齢者が収容されている点を踏まえ、これら高齢者に同様の虐待がないか調査し、適切に相談、指導、助言をしてください。

     また、上記の経緯からも明らかなように、新大久保寮の多くは生活保護の利用者であり、監査権限を有する東京都及び厚生労働省は連携して、適切な保護が実施されるよう指導・監督・指示を行ってください。

     さらに、国は法26条に基づく調査権限を有しているので、各地方自治体と連携して、全国で高齢者に対して同様の措置がなされていないか速やかに調査し、その結果を公表するとともに、同様の事例が発見された場合には、そのような措置が解消されるよう指導・監督・指示を行うべきです。

  7 よって、申出の趣旨記載の措置を求める次第です。

以  上

 

疎明資料

 甲1 宿泊所 新大久保寮 利用契約書兼重要事項説明書

   甲2 新大久保寮 生活サービス契約書兼重要事項説明書

   甲3 新大久保寮(入寮のしおり)

   甲4 社会福祉法人・施設・住宅サービス事業者情報

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