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「日本におけるGoogleインパクトチャレンジ」のグランプリを受賞した事業「CRIMELESS」についての意見書

特定非営利活動法人Homedoorおよびグーグル株式会社に対し、「日本におけるGoogleインパクトチャレンジ」のグランプリを受賞した事業「CRIMELESS」についての意見書を送りました。
《PDFダウンロード》
http://www.evernote.com/…/…/2e05651ede71a7182c922d4432d82fe2
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2015年3月30日

特定非営利活動法人Homedoor
理事長 川口 加奈 様

グーグル・アイルランド社(Google Ireland Ltd.)御中

グーグル株式会社
代表取締役 ロバートソン三保子 様

グーグル本社(Google Inc.)
CEO  ラリー・ペイジ 様

     東京都新宿区四谷3-2-2TRビル7階
     マザーシップ司法書士法人内
     ホームレス総合相談ネットワーク
     代 表 弁護士 森  川  文  人
     連絡先 115-0045東京都北区赤羽2-62-3
     事務局長代行 後閑一博
     電話03-3598-0444/FAX03-3598-0445
    
意 見 書
第1 要請の要旨
1.  米国グーグル本社(Google Inc.)、グーグル株式会社及びグーグル・アイルランド社(Google Ireland Ltd.)に対し、特定非営利活動法人Homedoorが提案しグーグル・アイルランド社が主催して「日本におけるGoogleインパクトチャレンジ」のグランプリを受賞させた事業「CRIMELESS」について、その事業化を推進させないことを強く求める。
2.  特定非営利活動法人Homedoorに対し、グーグル・アイルランド社が主催する「日本におけるGoogleインパクトチャレンジ」のグランプリを受賞した事業「CRIMELESS」について、その事業を実施しないことを強く求める。

第2 抗議及び要請の理由

ホームレス総合相談ネットワーク(以下「当ネットワーク」といいます。)は,ホームレスの方への法的支援を行う目的で2003年に結成された団体であり,路上でのホームレスの方への法律相談等を通してホームレスの方の自立への支援や人権の擁護に取り組んでおります。

グーグル・アイルランド社(Google Ireland Ltd. 以下、「グーグル・アイルランド社」といいます。)は、日本におけるGoogleインパクトチャレンジ(以下「インパクトチャレンジ」といいます。)と称して「日本の特定非営利活動法人、公益法人、社会福祉法人がテクノロジーを活用して世界を変えるプロジェクトを提案し、5000万円の支援金を獲得できるチャンスです。」という呼びかけを行いました。
米国グーグル本社(Google Inc.以下「グーグル本社」といいます。)とその日本法人であるグーグル株式会社(以下「グーグル日本法人」と言います。)は、インパクトチャレンジの6人の審査員の中に、グーグル本社のフィランソロピー部門を担う「Google.org」の執行役員であるジャクリーン・フラー氏と、グーグル日本法人執行役員 CMO、アジア太平洋地域 Google ブランドディレクターである岩村水樹氏が入っていることからも明らかなように、インパクトチャレンジに深くかかわり、これを実質的に運営し、推進する立場にある企業です。毎日新聞のサイトが「インターネットの検索大手グーグルが日本の非営利団体を対象にテクノロジーで社会をよくするアイデアを公募した『Google インパクトチャレンジ』の授賞式が26日、東京都内で開かれた。」と報道しているように、インパクトチャレンジの実質的な主催者はグーグル本社とグーグル日本法人であると社会的に認識されております。

特定非営利活動法人Homedoor(以下「貴法人」といいます。)は、インパクトチャレンジに応募し、2015年3月26日、グランプリを受賞しました。

貴法人が提案した内容は、インパクトチャレンジのホームページによれば、以下のとおりです。
「GPSによる治安維持とホームレス雇用の両立/位置情報システムを活用し、犯罪に関する統計、市民からの要請、目撃情報をマップ化します。その情報に基づき、防犯パトロールを行います。/また、統計やアプリで市民から寄せられるパトロール要請に基づき専用自転車で出動する仕事をホームレスの人のために創出します。/「ホームレスの雇用問題」と「夜間帯に女性への性犯罪が多発している問題」の同時解決に取り組みます。/5年以内に日本の犯罪率を10%減少させ、ホームレス4,000人(全体の約50%)に雇用創出を目指します。」
また、貴法人のホームページによれば、貴法人の提案(以下「CRIMELESS」といいます。)は以下のとおりです。
「Homedoorでは、缶集めと同等の労力で収入を向上できる仕事を考えました。「CRIMELESS」です。路上脱出の際、ただでさえ、色々な負担がおっちゃんたちにはかかるので、今までの仕事の延長でできる、馴染みの深い仕事であることがポイントです。/CRIMELESSでは、暗い夜道を歩くのが怖い人から寄せられる携帯アプリからのパトロール要請や、犯罪統計、GPSを駆使した防犯ルートを、特別な訓練を受けたホームレスの人が、缶集めの要領でパトロールします。/運営資金は、地元企業からの協賛金やパトロール要請の利用料でまかないます。CRIMELESSで働きながらお金を貯め、路上脱出を目指します。」

ホームレスの雇用問題を解決するとしていますが、貴法人が提案しグーグル・アイルランド社がグランプリを受賞させたCRIMELESSについては、以下の構造的な問題があります。
第一に、危険で困難な業務であることの配慮が欠けています。
CRIMELESSにおいて提案されているのは、ホームレスの方による公園、道路等の公の場所の警らです。これは、本来的には警察業務ですから、CRIMELESSはいわゆる私設警察として実施するものとなります。
警ら業務は、警視庁等の警察組織においても、「著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他著しく特殊な勤務で、給与上特別の考慮」がなされている特殊勤務手当の対象となる業務です。
前記貴法人ホームページでは、「今までの仕事の延長でできる、馴染みの深い仕事」と記載されていますが、全くの誤解です。ホームレスの方に必ずしも適性があるわけではなく、ホームレスの方に雇用を限定する意味も全くありません。かかる事業は、相当の給与を支払って、偽装請負ではなく雇用することによって実施されなければなりません。しかし、「運営資金は、地元企業からの協賛金やパトロール要請の利用料でまかないます。」とされており、給与保証が期待される状況ではありません。
さらに、警らは警察組織の業務ですから警察組織との協力のもとで実施していくことになると思われます。それをホームレスの方に限定して実施すれば、実質的に警察組織の支配下にホームレス状態の人を置いて、警らという危険な業務をホームレス状態の人に押し付けることとなります。ホームレス状態であること自体を犯罪視する風潮(地方自治体で制定される缶集めを禁止する条例等)が強まっているなか、立場の弱い者を警察組織の手先として使役するいわゆるかつての「放免」(検非違使の下部として犯罪人の捜索等に当たった釈放された囚人)を想起させるものです。
第二に、「CRIMELESSで働きながらお金を貯め、路上脱出を目指します」となされていることから、CRIMELESSはホームレスの方をホームレス状態のまま、働かせようとしています。自助を前面にうちだすことは、当事者に自己責任であることを強調する活動といえます。本来利用可能である社会福祉制度について情報提供したり利用を支援したりせずにホームレス状態のままで働かせようとするその態度は反福祉といえます。
またCRIMELESSで雇用されるにあたって、住居の提供がないこと自体が雇用者の責任を果たしていないといえます。
第三に、CRIMELESSによって、CRIMELESSに参加しない多くのホームレスの方たちが危険にさらされることとなります。前記のとおり各地で缶集めが禁止されていくなどしてホームレス状態であること自体が犯罪視される風潮が強まるなか、CRIMELESSで警らするホームレスの方によって、その他のホームレスの方が公の場所から排除されていくことになりかねません。
また、ホームレスの方が警察組織の手先として警らしていると犯罪者に周知されれば、警らしていないホームレスの方はもちろん、警らしていないホームレスの方も犯罪者に接することで生命身体に危険が及ぶこととなります。
CRIMELESSによって、ホームレスの方はますます身の危険を感じ怯えながら生活していくこととなります。
以上3点は、CRIMELESSという事業の本質において問題となる点です。
CRIMELESSは、低賃金で路上生活を放置したままなされる、ホームレスの方を使役した警らであって、ホームレスの方の自立への支援や人権の擁護に反するものとなります。
CRIMELESSは社会問題を解決するものではなく、より大きな社会問題を生み出すものとなります。この事業の実施主体となる貴法人の将来における法的責任及び社会的責任だけではなく、この事業の実施のための資金となる賞金を提供して推進しようとすることによって、グーグル3社(グーグル・アイルランド社、グーグル本社、グーグル日本法人)の将来生じ得る法的責任及び社会的責任もきわめて大きいものだと当ネットワークは認識しております。

よって、当ネットワークは、CRIMELESSについて全く許容できませんので、それを表明し、CRIMELESSにかかる事業を実施しないことを強く求めます。

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