先日報道された宿泊施設での殺人事件について、意見書を執行しました。
先日報道された宿泊施設での殺人事件について、意見書を執行しました。
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2014年9月12日
厚生労働大臣 塩 崎 恭 久 殿
東京都知事 舛 添 要 一 殿
意 見 書
私たちホームレス総合相談ネットワークは、主として東京都内においてホームレス状態にある人々をはじめとする生活困窮者に対する法的支援活動を行っている団体である。
今般、小平市所在の宿泊施設内で施設利用者が同じ施設利用者を殺害したとして逮捕されるという事件報道を受け、次のとおり意見を表明をする。
当該宿泊施設は、あるNPO法人が、集合住宅を借り上げて低所得者約40名を入居させて運営していたもので、被害者は加害者を含む2名の男性と同じ居室で生活しており、本年5月から入居した加害者(59歳)と先に入居していた被害者(71歳)との間でトラブルがあったと報じられている。
事件の詳細はまだ分からないが、全く無関係の男性どうしが同居を余儀なくされていたことから、この事件の背景に、2人が利用していた「宿泊施設」の問題が存在することは間違いない。この「宿泊施設」は、社会福祉法第2条第3項に定める第2種社会福祉事業として運営され、本年8月1日現在、東京都内に178カ所(定員数5532名)存在する「無料低額宿泊所」とみられる。
無料低額宿泊所の入所者のほとんどは生活保護受給者で、生活保護の受給が入所・利用の前提となっている。一般的に、無料低額宿泊所では、高額な施設利用料・配食などのサービス料が設定されている。当事者には、生活保護を受給する際に、このような施設を利用する以外の選択肢が示されないのが通常で、また、施設やサービスの利用から離脱することが事実上困難である。不明瞭な名目で保護費の大半を差し引き、施設利用者を劣悪な環境下に囲い込む悪質な業者もいる。このような業者の存在、あるいは業者を必要悪として許容する生活保護制度は、生活困窮者に対して、屋根の下で暮らすことと引替えに劣悪な居住環境を強制する結果となっている。
そもそも、生活保護法30条1項は,「生活扶助は,被保護者の居宅において行うものとする」と規定し、居宅保護の原則を宣明している。このような原則がとられているのは、人は、施設での集団生活ではなく在宅での生活を望むのが当然であるだけでなく、地域社会の中で自らの意思決定のもと人間らしい生活をおくることこそが「自立の助長」という生活保護法の目的(同法1条)を達成するためにふさわしいからである。
しかし、行政は、ホームレス状態にある要保護者の生活保護申請に対し,「住所や家がない者は保護できない」という違法な規制(俗に言う「水際作戦」)を行い、要保護者が単独で福祉事務所の窓口を訪れても追い返してきた。そして、施設型業者を使い勝手のよい受入先として利用し、運営に関する規制がゆるい施設の運営を容認してきた。また、不当な営業がなされていても、経営の制限や停止の措置が積極的にとられることはまれである。
以前から、宿泊施設内では、利用者どうしのトラブルにより死傷事件が発生しており、2008年1月には、練馬区所在の宿泊施設で退寮処分を言い渡された施設利用者が寮長を刺殺するという事件が発生した。この事件の判決では、「いわゆる第2種宿泊所には、その設置及び運営の在り方に関して様々な批判がなされている」ということが、被告人のために酌むべき諸事情として掲げられた(東京地裁平成21年1月9日判決)。
また、これまでに、千葉市議会、名古屋市議会、東京都議会、茨城県議会など多くの地方議会が意見書を発出して国に法規制を求め、2010年6月、日本弁護士連合会も「『無料低額宿泊所』問題に関する意見書」を発出している。
にもかかわらず、またも、本件のような事件が繰り返され、一方ではかけがえのない命が失われ、他方加害者という立場になった人が出たことは、痛恨のきわみである。
今後は、悪質業者に対する規制に加え、現にこのような業者のもとで暮らしている当事者に対して、転居支援を拡大し、実効性のある苦情相談窓口を設置し、また、それらのサービスにアクセスすることが可能なように情報提供を徹底すべきである。
以上
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