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参議院選挙において、ホームレス状態、DV被害、長期入院などの事情により住民登録がない有権者が、その選挙権を行使しうるよう必要な措置を執ることを求める要望書

                         平成25年5月31日
内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
法務大臣 谷垣 禎一 殿
総務大臣 新藤 義孝 殿
                ホームレス法的支援者交流会
                  代表 後 閑 一 博
                  代表 木 原 万樹子
(連絡先)
ホームレス法的支援者交流会事務局
〒890-0056 鹿児島市下荒田1丁目38番33号
事務局長 芝田 淳
Tel:099-296-1253 Fax:099-296-1254
nanohana@siren.ocn.ne.jp
要 望 書
要望の趣旨
来る参議院選挙において、ホームレス状態、DV被害、長期入院などの事情により住民登録がない有権者が、その選挙権を行使しうるよう必要な措置を執ることを求めます。
要望の理由
1. 当会は、路上生活者、ネットカフェ難民等、社会的又は経済的困窮のため安定した住居を有しない状態にある方々に対し、健康で文化的かつ人間の尊厳を保ちうるために相当程度の生活を送るための法的な支援を行うとともに、その人権を擁護し、違法な差別や偏見を除去することを目的として、弁護士・司法書士らが中心となって設立された団体です。
2. 現在のわが国の法律においては、選挙人名簿の登録は、住民基本台帳に記録されている者で選挙権を有するものについて行なう(住民基本台帳法第15条)とされているため、住民登録をしなければ選挙権がないのと同様の状況におかれてしまいます。他方、ホームレス状態の方が生活している公園に住民登録をすることができるか否かについて争われた裁判で、最高裁はこれを否定する判決を下しました。同判決の原審である大阪高裁判決は、ホームレス自立支援法に基づく施策があるから、ホームレス状態の方は「自立支援センターに入居し、同所で住居登録をすることを妨げる事情」はないと認定しています。確かに、生活保護制度やホームレス自立支援法による支援施策があるのは事実ですが、だからといって、それらの施策を利用しなければ選挙権が行使できない状態におかれることが許されるわけではありません。また、2007年、大阪市は、選挙を目前にして、住居がないがために支援団体施設等に住民登録していたホームレス生活者や日雇労働者について、住民登録を抹消し、選挙権の行使を不可能にするという事態も発生しています。
3. 在外邦人の選挙権が最高裁判決によって明確になった一方で、単に家がないという理由から住民登録をすることができず、結果、選挙権の行使ができない状況は、ホームレス生活者の方々等の権利をないがしろにしたものであり、選挙人の資格を社会的身分や財産で差別してはならないとする憲法第44条に違反する違憲状態であるといわざるを得ません。
4. そこで、当会は、平成22年7月11日に実施された参議院通常選挙及び平成24年12月16日に実施された衆議院総選挙に先立って、それぞれ、「意見書」を提出し、政府に対して、本要望書と同趣旨の意見を具申しましたが、各選挙の実施までになんらの措置も講じられませんでした。
5. 当会は、平成22年7月11日に実施された参議院通常選挙施行日までに772人の方に対する調査を実施しましたが、選挙権を行使できない状況にある方々の55.7%が選挙権の行使を望んでいること、ホームレス状態、DV被害、長期入院などの事情により住民登録がない有権者が、その選挙権を行使し得ないことに対して当事者はもちろんそうでない方々にも強い憤りがあること、生活困窮等様々な困難に直面している方々にこそ選挙権の確保が必要であるとの意見があること等が分かりました。
6. さらに、平成23年12月16日に実施された衆議院総選挙施行日までに409人の方に対する調査を実施しましたが、選挙権を行使できない状況にある方々の62.0%が選挙権の行使を望んでいること等、同様の結果が現れました。
7. そこで、当会は、それぞれの選挙後に、あらためて「意見書」を提出し、政府に対して是正を求めたところですが、今日まで、なんらの措置も講じられていません。(提出した意見書は添付の通りです。)
8. 多数の方が選挙権の行使を望んでいるにもかかわらず、ホームレス状態、DV被害、長期入院などの事情で住民登録をすることができないがために、選挙権の行使を妨げられている現状は、明らかに憲法第44条に反する違憲状態です。直ちに、この違憲状態を解消する必要があります。
9. 以上の通りですので、要望の趣旨記載のとおり、来る参議院選挙において、ホームレス状態にあること、DV被害、長期入院などの事情により住民登録がない有権者が、その選挙権を行使しうるよう必要な措置を執るよう求めます。
以    上
PDF→ http://goo.gl/3WjHP

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生活保護法改正案に反対し廃案を求める意見書

生活保護法改正案に反対し廃案を求める意見書

PDF→ http://goo.gl/wrQxS

2013年5月23日

 

ホームレス総合相談ネットワーク  代表(弁護士) 森 川 文 人

1 ホームレス総合相談ネットワークとは[A1]   私たちホームレス総合相談ネットワークは、主として東京都内においてホームレス状態にある人々をはじめとする生活困窮者に対する法的支援活動を行っている団体です。

2013年5月16日閣議決定された生活保護法改正案は、憲法25条に照らして重大な問題があることから以下のとおり意見させていただきます。

 

2 申請手続を要式行為とする改正案の概要

 改正法案24条1項は、生活保護の申請にあたり、これまで口頭で申請の意思が示さ  れれば、申請行為としては足りるとされていた実務運用(大阪高裁平成13年10月19日判決(訟月49巻4号1280号〔上告棄却・確定〕)を改め、申請書の提出を申請者に対して義務付けています。そして、当該申請書には、「要保護者の氏名及び住所」等だけでなく「要保護者の資産及び収入の状況(生業若しくは就労又は求職活動の状況、扶養義務者の扶養の状況及び他の法律に定める扶助の状況を含む)」のほか「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出してしなければならないとし、同条2項は、申請書には要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としています。

3 改正案がもたらす事態

 しかし、生活保護申請にあたって生活に困窮して福祉事務所を訪れた申請者に対して、複数の申請書の提出に加えて多岐にわたる書類の添付を義務付けることは、申請者の申請意思を抑圧・萎縮させることに直結します。本件改正は、生活保護の申請に不当な障壁を設けることにつながり、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障する憲法25条に違反すると言わざるを得ません。

とりわけ、ホームレス状態の方々は、憲法上の権利として生活保護が受給できることをそもそも知らず、また、長期間の路上生活により心身共に疲弊しているなど、自ら生活保護を申請することが能力的にも困難な方が少なくありません。文字を読み書きする能力も無い方も大勢います。精神等の疾患を抱えて、書類の意味さえ理解できない方も決して珍しくありません。

 ホームレス状態の方々は、全員住所をもたないため、郵送物を受け取ることができません。つまり、彼らが生活保護の申請をしようとした場合には、食事にも事欠くような絶対的貧困の状態にあり、電車賃すらないにもかかわらず、申請に必要な添付書類を集めるために、遠隔地にある複数の作成機関の窓口に、直接本人が行って、書類の交付を求めざるを得ないのです。なお、住所を持たないということは、ホームレス状態にある方々は、有効な身分証明書を持たないことも意味します。このような状態で、仮に本人が窓口までたどり着いたとしても、身分証明をもたない本人に対して、個人情報を多く含む必要書面の交付がなされうるのか、極めて疑わしいものです。

そのような方々に「申請書」の提出と複数の書類の添付を義務付けることは、不可能を強いるに等しい事態です。

 上記法改正は、生活保護の申請を不可能にするという現実の効果をもたらすことは必至です。また、現実の生活保護行政をみても、福祉事務所の窓口で生活困窮者を追い返す「水際作戦」と称される違法な申請不受理、申請書不交付の事例が社会問題化しています。

このようなホームレス状態にある方々、その他の生活困窮者の置かれた状況、現実の福祉事務所における対応の実態を踏まえれば、今回の改正案によって申請書の提出、書類の添付を申請者に対して義務付けることにより、生活に困窮した人の生活保護申請を現在より一層困難にすることは明らかです。また、福祉事務所職員による違法な申請不受理、申請書不交付などの「水際作戦」にお墨付きを与えるものとなってしまいかねません。

4 改正案は、憲法25条1項に違反します

 そもそも、生活保護制度は、憲法25条1項に基づき、全ての生活困窮者に対して健康で文化的な最低限度の生活を保障するための制度です。  生活保護申請行為に申請書、複数[A8] 書類の添付を要求する今回の改正案が申請者に一定の義務を課し負担を負わせるものである以上、法改正にあたっては、改正する必要性、合理性があるのか生活保護行政の実態と憲法25条1項で保障される権利の観点から吟味されなければなりません。今回の改正案は、不正受給対策のためと言われていますが、立法目的との関連も明確ではありません。

 実際の生活保護制度をめぐる現状を踏まえれば、そもそも改正の必要性は存在せず、むしろ改正によって生活に困窮した人がより一層生活保護を申請しづらくなるという具体的弊害が予想されている以上、改正の合理的理由はまったく認められず、憲法25条1項に違反すると考えます。

5 廃案を求めます

 私達は、ホームレス状態にある方々の法的支援を行い、福祉事務所において生活保護申請の支援を行う者として、今回の改正案によって、福祉事務所の現場でおこる苛酷な事態を容易に想像することができ恐怖すら感じています。  今回の改正案は、憲法25条1項が保障する生存権を奪う違憲な法案立法であると言わざるを得ず、法律家として断じて認めるわけにはいきません。改正案が、速やかに廃案とされることを求めます。                                       以上

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なんでも相談会@美竹公園(5/5)

 5月5日は、のじれん・せいこうかい合同「なんでも相談会@美竹公園」にて、当ネットワークが法律相談を担当しました。

 9件の相談があり、多くの方が連休明けに生活保護申請をすることとなりました。

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相談員より

 お一人は、70代の高齢者。年間渋谷区で保護を受けていたが、相部屋施設を転々とさせられ、最終的には施設長との折り合いが悪く自主退去した。というものです。

 この方、ADLも要介護であるにもかかわらず、介護認定もなく介護サービスを利用して居宅生活を営めるかの検討もなされていないのは問題だし、ホームレスだった方は、どこまで行ってもホームレス扱いの劣等処遇を強要されるという典型だったと認識します。

 5月7日に、生活保護申請に同行することになりました。

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主催者の方より

「どうしようかな」とためらいながら様子を伺いにこられた方々に「今日きてくれてる法律家の人たちは、気軽に聞いてくれますよ、やさしいですよ、とりあえず話してみたら?」と言うと、「じゃあ」と相談テーブルに。

 生活保護申請で、福祉事務所や施設で嫌な思いをしてきた方が多い。

 相談会で話をして「一緒に申請に行きましょう」と言うと、「もう一度がんばるか」と顔がほころぶ。

 申請用紙を真剣に書いている姿を見ながら「良かった」と思う。

 同時に憤りを覚える。
 一番弱い立場におかれた人が、一人で行政に助けを求めて相談・申請に行ってもうまくいかないのに、支援者が同行すると(バトルの末だが)うまくいくというのは、おかしい。
 それってまさしく行政が弱いものいじめしている、ということじゃないか!

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