【勝訴記念】新宿区ホームレス生活保護裁判〜新宿七夕訴訟〜「ホームレス」だと生活を保護を受けられないの?〜
新宿区ホームレス生活保護裁判〜新宿七夕訴訟〜の控訴審の勝訴を記念して、裁判のあらましを掲載いたします。原告は、2008年に新宿区のつのはず地域センターで開催された相談会を経て、新宿区に生活保護乃申請をしました。そこから物語が始まります。
●路上からアパートでの暮らしを願った生活保護申請
2008年6月、Aさん(当時57歳)は、仕事と住まいを失い、新宿区内で路上生活を余儀なくされ、いわゆる「ホームレス状態」になっていました。
そんなある日、Aさんは、〈ホームレス総合相談ネットワーク〉という団体が路上生活で困っている人を対象に、弁護士や司法書士による「無料法律相談会」を開催するという内容のちらしを路上で受け取りました。その相談会では、法律相談が無料で受けられ、借金などの悩み、生活の再建について相談を受けられるというのです。Aさんはおもいきって無料法律相談会をおとずれました。Aさんはそこで、生活保護制度を利用すれば生活再建してアパートに入居することも可能、という説明を弁護士から受けました。
生活保護を受けることにためらいがあったAさんでしたが、「アパートで暮らして生活を立て直し、仕事に就いて働けるうちはまだまだ働きたい」という強い思いから、生活保護を申請する決意をしました。そして、その相談会から二日後、新宿区福祉事務所に生活保護の申請をしました。
●3回も生活保護申請を却下!!
しかし、新宿区の福祉事務所の窓口では2時間以上も申請の手続きが難航しました。職員が「ホームレスは自立に行ってもらっている」とAさんの申請を受け取らなかったからです。その後ようやく申請は受け付けられましたが、新宿区福祉事務所長は約2週間後にAさんの生活保護申請を却下してしまいました。新宿区福祉事務所長は、自立支援施設への入所を断ったAさんに対して、Aさんが「稼働能力」を活用していないことを理由に生活保護申請を却下したのです。
Aさんは、「新宿区福祉事務所の対応は、生活保護法に照らして違法であり、憲法25条で保障された生存権を侵害するもの」として、7月7日、東京地方裁判所に提訴しました。裁判所に提訴した日が、7月7日であったことと、Aさんの「アパートで暮らして仕事に就き生活再建したい」という強い願いが叶うことを祈り、この裁判を「新宿七夕訴訟」と呼ぶこととなりました。
●裁判所の判断~全面勝訴判決!!~
東京地方裁判所は、2011年11月8日、Aさんの訴えを全面的に認め、新宿区福祉事務所長の生活保護申請却下処分は違法であり、却下処分の取り消し、生活保護開始決定の義務付けを命じる判決を言い渡しました(新宿区は、控訴をしましたが2012年7月18日、東京高等裁判所は控訴を棄却しました。)。
この判決は、最高裁判所に上告されることなく確定しました。裁判所の判決が確定したことにより、新宿区福祉事務所長がAさんに対して行った生活保護申請却下処分が法律に照らして間違っていたことが認められました(処分の取り消し)。それに加えて、裁判所は、福祉事務所に対して「Aさんに対して最初に申請をした2008年6月にさかのぼって生活保護を開始する決定をしなさい」という命令を下しました(生活保護開始決定の義務付け)。
Aさんは、4年間もの間、厳しい裁判をしてようやく生活保護を受けられることを認めさせましたが、本来は裁判などしなくても生活に困っていれば当然に生活保護は受けられるべきです。憲法25条1項も、生活保護を受けて健康で文化的な最低限度の生活を営むことは「権利」として保障されると明言しています。
生活保護を受けることは、すべての人に対して「権利」として保障されているのです。新宿七夕訴訟を通じて、Aさんは、自分一人のためではなく、他にも福祉事務所で生活保護を受けられずに困っている仲間のために闘いました。Aさんは、「ホームレス状態」にあっても路上からでも生活保護を申請し、きちんと生活保護を受けられ、アパートでの生活もできるのだということを、勇気をもって主張し、裁判所にも受け入れられました。これは、大きな価値と意味のある判決だといえます。