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【申し入れ】京都市廃棄物の減量及び適正処理等に関する条例の改正

京都市では、家庭から出された「缶・びん・ペットボトル」及び「大型ごみ」の持去りを京都市廃棄物の減量及び適正処理等に関する条例の改正(以下、本件条例改正案)により禁止することを検討されています。

この条例が実施されると、空き缶回収をおこなっているホームレスの人びとの生活を脅かすことになりかねません。よって、条例に反対する全国の法律家が、申し入れをおこないました。

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2010年(平成22年)8月11日

京都市環境政策局循環型社会推進部循環企画課 御中

  賛 同 者 一 同
意 見 書

私たちは、各地で弁護士会、司法書士会又は任意の団体を通じてホームレスの人々を対象とする法律相談活動などに取り組んでいる弁護士・司法書士です。
 今般、貴市は、家庭から出された「缶・びん・ペットボトル」及び「大型ごみ」の持去りを京都市廃棄物の減量及び適正処理等に関する条例の改正(以下、本件条例改正案)により禁止することを検討し、パブリックコメントを実施して、市民等への意見募集を実施しておられます。しかし、公表されている内容をみるかぎり、本件条例改正案には、アルミ缶等の回収を行っているホームレスの人々に対する配慮が欠けております。私たちは、ホームレスの人々の生存権保障の見地から、本件条例改正案は、下記のとおり、ホームレスの人々の生存を脅かすものであり、生存権を保障した憲法25条、条約(社会権規約)、生活保護法及びホームレスの自立の支援等に関する特別措置法の趣旨に反するものであると考えます。そこで、本件条例改正案の問題点について再考し、ホームレスの人々に対する配慮を欠いた本件条例改正案を撤回して頂きたく、本意見書を提出いたします。

1 憲法25条は、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障しているところ、ホームレスの人々は、「健康で文化的な最低限度の生活」を侵害されている存在です。すなわち、ホームレスの人々がホームレスに追い込まれている事情や、ホームレスを継続せざるを得ない実情には、労働政策や社会保障施策の不備があります。このことは、ホームレスの人々の次のような実態からも窺われます。
近時、全国調査において、ホームレスの人々の高齢化と野宿期間の長期化の傾向が表れています。京都でも、2003年調査と2007年調査を比較すると、40歳代以下が7.9%から1.2%へ6.7%減少している一方、60歳以上の人は31.8%から47.6%へ15.8%増えて、平均年齢も54.1歳から58.1歳に上昇しています。野宿期間1年未満の者が51.6%から35.3%へ16.3%減少する一方、5年以上10年未満が5.7%から22.0%へ(16.3%増)、10年以上が2.3%から7.3%へ(5.0%増)、それぞれ上昇しています。
また、ホームレスの人々の支援団体の活動のなかで、障がいを抱えた人たちが相当数いることも明らかになっています。北九州市では、民間のNPO法人に委託して運営しているホームレス自立支援センターにおいて、2006年度と2007年度に退所した人のうち、3割以上の人が軽度の知的障がいがあると判断され、「療育手帳」を取得しているそうです。最近、精神科医や臨床心理士らで作る研究チームが行った調査でも、都心のホームレスの人々のうち3割以上は知的機能に障がいがあるとみられ、精神疾患も4割以上にあると指摘されています。京都でも、目に見える野宿者が減少していくなかで精神的な障がいを抱えたホームレスの人々が目に入るようになっています。

2 ホームレスの人々の野宿期間が長期化してきた大きな要因として、生活保護の運用の誤りがあります。生存権(憲法25条)を具体化した生活保護法は、住居を有しない方々をもその現在地において保護の対象として予定し(生活保護法19条1項2号)、その場合の都道府県と市区町村間の費用分担に関する規定を設けています(同法73条1項)。また、生活保護法は、居宅保護を原則としており、施設保護としての入所や入院による保護は例外にすぎません(同法30条1項)。ホームレスの人々についても、要保護性が認められる限り、居宅保護を原則とした生活保護が開始されるべきなのです。日本も締約国である国際人権規約・社会権規約11条1項が、「生活条件の不断の改善についてのすべての者の権利」を規定しているのは、これと同じ趣旨を含むと解されます。しかし、行政は、ホームレスの人々に対して生活保護を開始することを拒否したり、違法な適用制限を行ったりしてきました。厚生労働省がホームレスであることのみをもって生活保護の要件に欠けない旨を通達で注意している(「ホームレスに対する生活保護の適用について」平成15年7月31日社援保発第0731001号厚生労働省社会・援護局保護課長通知)ことからも明らかなように、各地の保護実施機関で違法な取扱いが再三繰り返されてきたところです。
京都市におかれては、生活保護の申請が急増するなか、法の趣旨に基づいた生活保護の運用に努力しておられることと思います。しかし、ホームレスの人々に対する生活保護の運用においては、中央保護所の入所を経ずに直接アパートに入居することが認められない、あるいは、稼働年齢層の場合にはアパート入居が選択肢として提示されずに自立支援センターへの入所を強く勧められるなど、京都市の運用には問題があります。ホームレスの人々にとって、ホームレスであるがゆえに生活保護の申請自体が依然として高いハードルとなっており、実質的には「健康で文化的な最低限度の生活」の保障を損なわれています。

3 ホームレスの人々が「健康で文化的な最低限度の生活」を侵害されている現状において、その生活は、住居その他の生活基盤を持たず、物質的に欠乏しているのみならず、社会の様々な偏見や差別にさらされながら生活することを強いられるものであって、大変苛酷なものです。その中で、アルミ缶その他の廃品を収集して換金することによりかろうじて日々の生活を生き抜いている人々が相当数存在します。2007年1月に実施されたホームレスの実態に関する全国調査によれば、ホームレスの人々の70.1%が仕事をしており、その主な内訳は「廃品回収」が75.9%となっています。京都市においても、2007年調査において、ホームレスの人々の53.7%が収入のある仕事をしており、その主な内訳は「廃品回収」が84.1%となっています。
「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(平成十四年八月七日法律第百五号、以下「自立支援法」と略称する。)は、「自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存在」することにかんがみ、ホームレスの自立を支援するために、その人権に配慮しつつ、必要な施策を講ずることなどを定めるものです(1条)。同法は、「ホームレスの自立のためには就業の機会が確保されることが最も重要」(3条2項)としつつ、自立の支援のための施策が総合的に推進されるべきこと(同1項)を定め、地方公共団体がその施策の策定と実施の責務を負うこととしています(6条)。そして、自立支援法に基づいて国が策定した「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」(平成20年7月31日厚生労働省・国土交通省告示第1号)は、「就業による自立の意思があるホームレスに対して、国及び地方公共団体は、ホームレスの自立の支援等を行っている民間団体との連携を図り、求人の確保や職業相談の実施、職業能力開発の支援等を行うとともに、地域の実情に応じた施策を講じていくことが必要である」としたうえで、常用雇用による自立が直ちには困難なホームレスに対して、雑誌回収やアルミ缶回収等の都市雑業的な職種の開拓や情報収集・情報提供を行うべきことが明記されています(第3−2(1)キ)。「都市雑業的な職種」の例示としてアルミ缶回収が明示されていることから、地方公共団体は、ホームレスの人々に対して廃品回収業を職種として開拓するなどの施策を講じるべき責務を負っていると解されます。自立支援法がいう就労による自立支援には、ホームレスの人々がアルミ缶等の廃品の回収業に従事することを支援する施策も含むというべきであり、その策定と実施は地方公共団体の責務なのです。
しかるに、本件条例改正案は、京都市が負うべき施策実施の責務を実行しないばかりか、かえって廃品回収業によるホームレスの人々の自立を困難にするものです。前記のとおり、ホームレスの人々は、野宿期間が長期化し、高齢化しており、対人関係を築くことに困難を抱えた人たちも相当数存在しています。今般の不況下において、ホームレスの人々が一般の労働市場で就業先を見つけることは困難となっており、アルミ缶回収等の廃品回収は数少ない貴重な収入源となっています。何ら代替策を講じることなく規制するのであれば、これまでアルミ缶等の廃品回収によって辛うじて生活を維持してきたホームレスの人々は、たちまち収入を失い、困窮状態に陥ってしまうことは明らかです。

4 ホームレスの人々のなかには、これまで過酷な日雇い労働で搾取をされて使い捨てにされ、身体や精神に障がいを抱えた人たちがいます。また、福祉施策、とりわけ生活保護を受けようとして、いわゆる「水際作戦」に遭い、行政に対して強い不信感を抱いている人たちも大勢います。アルミ缶等の廃品回収を収入源としているホームレスの人々の多くは、自らの労働によって対価を得ることを生き甲斐としており、そこに人間としての尊厳を見出しています。彼ら彼女らの多くは自分たちの働く場を求めています。本件条例改正案によって働く場が失われた場合、生活保護の申請に至る人たちもいるでしょうが、行政不信や対人関係の形成そのものに困難を抱えている人たちも多いなかで、必ずしも福祉施策につながるとは限りません。そのため、本件条例改正案が成立して実際に施行された場合、ホームレスの人々が生活困窮後に路上において衰弱死し、あるいは、健康を害した後に救急搬送されて医療を受けざるを得なくなることも予想されます。このような事態は明らかに生存権の侵害であり、社会的にかえってコストが高くつく可能性もあります。

5 京都市は、本件条例改正案に関するパブリックコメントを実施するにあたり、条例改正の必要性として、①リサイクル意識の低下を招き、ごみ減量・リサイクル施策が後退する、②ゴミ集積所の清潔を確保する、③売却収入の減少による負担の増大や不利益につながる、の3点を挙げています。
しかし、①については、それぞれの市民が有料の指定袋を購入したうえで、その袋に資源となるごみを分別し、定められた集積所に捨てることによって、ごみの減量に向けた意識を十分に喚起しており、減量化を促進しています。集積所に捨てられた後のごみの持ち去りは、市民のリサイクル意識の低下には直結しません。
また、②については、アルミ缶等の廃品回収を行っているホームレスの人々の多くは市民に迷惑をかけることのないよう十分配慮をしているはずです。仮に一部にそのような事実があるとしても、少なくともホームレスの人々については、支援団体や当事者の集まりを通じて呼びかけ、改善を図ることが可能です。
さらに、③については、京都市がホームレスの人々に対して都市雑業的な職種の開拓をせず、アルミ缶等の回収が実質的にその補完の役割を担ってきた実態を無視して論じることはできません。京都市が都市雑業的な職種の開拓や情報提供をしないなか、ホームレスの人々はアルミ缶等の回収を行うことで必死に日々を生き抜き、結果的に、京都市は経済的な負担や手間を負わずに“安上がり”に済ませてきました。このような経緯の下、京都市が本件条例改正案を通じてアルミ缶等の売却による僅かな収入まで取りあげようとすることは、自らの責任を完全に放棄するものと言わざるを得ません。
なお、一部の悪質業者が大量のごみの持ち去りを行っている実態はあるようです。これについては、アルミ缶等の回収を行っているホームレスの人々も大変迷惑し、そのような悪質業者と同様の扱いを受けることに困惑しています。このような悪質な業者に対しては規制の必要性があると考えていますが、そのための規制は必要最小限にとどめるべきであり、ホームレスの人々による廃品回収まで禁止することは許されません。

6 以上により、本件条例改正案は、行政の怠慢によって「健康で文化的な最低限度の生活」を侵害されているホームレスの人々をさらに困窮状態に陥れ、その生存を脅かすものであり、憲法25条、条約(社会権規約)および法律(生活保護法、自立支援法)の趣旨に反するものであるといわざるを得ません。貴市におかれましては、ホームレスの人々の生活実態と地方公共団体の本来の責務を踏まえ、本件条例改正案を撤回されるべきです。仮に、本件条例改正を行うのであれば、少なくとも、事業者による大量の持ち去りに焦点を当て、自動車やバイクを用いた持ち去りに限定して規制する、ホームレスの人々の生活に配慮した代替策を講じることを明示するなど、ホームレスの人々の人権に十分配慮すべきです。

以上

賛 同 者 一 覧

舟 木   浩(京都弁護士会) 秋 山 伸 夫(京都司法書士会)
浅 井   健(京都司法書士会) 池 田 良 太(京都弁護士会)
石 側 亮 太(京都弁護士会) 大 杉 光 子(京都弁護士会)
小 野   慶(京都司法書士会) 笠 尾   寛(京都司法書士会)
佐 野 就 平(京都弁護士会) 柴 田 宏 明(京都司法書士会)
新 保 英 毅(京都弁護士会) 西 野   智(京都司法書士会)
森 田 基 彦(京都弁護士会) 吉 田 雄 大(京都弁護士会)
安 東 朋 美(札幌司法書士会) 楠   高 志(札幌司法書士会)
井 口 鈴 子(埼玉司法書士会) 長 田 悦 子(埼玉司法書士会)
北 川 浩 司(埼玉弁護士会) 柴 野 和 善(埼玉弁護士会)
太 田 伸 二(東京弁護士会) 後 閑 一 博(東京司法書士会)
高 木   宏(東京司法書士会) 戸 舘 圭 之(第二東京弁護士会)
林     治(東京弁護士会) 森 川   清(東京弁護士会)
常 岡 久寿雄(千葉県弁護士会) 古根村 博 和(神奈川県司法書士会)
掛 川   哲(長野県司法書士会) 小 澤 吉 徳(静岡県司法書士会)
榛 葉 隆 雄(静岡県司法書士会) 高 貝   亮(静岡県弁護士会)
羽根田 龍 彦(静岡県司法書士会) 平 塚 哲 也(静岡県司法書士会)
増 田 真 也(静岡県司法書士会) 鈴 木 順 平(愛知県司法書士会)
森   弘 典(愛知県弁護士会) 黒 田 啓 介(滋賀弁護士会)
太 田 智 真(滋賀県司法書士会) 福 井 秀 男(滋賀県司法書士会)
上 溝 博 司(大阪司法書士会) 奥 田 愼 吾(大阪弁護士会)
小 野 順 子(大阪弁護士会) 康   由 美(大阪弁護士会)
木 原 万樹子(大阪弁護士会) 小久保 哲 郎(大阪弁護士会)
七 堂 眞 紀(大阪弁護士会) 新 川 輝 美(大阪司法書士会)
鈴 木 節 男(大阪弁護士会) 徳 武 聡 子(大阪司法書士会)
渕 田 和 子(大阪司法書士会) 本 田 正 宏(大阪司法書士会)
吉 川 宏 康(大阪司法書士会) 榊 山 雄一朗(奈良県司法書士会)
辻   晋 佑(奈良県司法書士会) 西 田 真 二(奈良県司法書士会)
西 山 弓 子(奈良県司法書士会) 前 川 一 彦(奈良県司法書士会)
高 原   勉(兵庫県司法書士会) 辰 巳 裕 規(兵庫県弁護士会)
常 峰 智 子(兵庫県司法書士会) 中 村 宏 二(兵庫県司法書士会)
増 田 祐 一(兵庫県弁護士会) 大 部   孝(福岡県司法書士会)
柿 木 高 紀(福岡県司法書士会) 川 口 香 織(福岡県司法書士会)
木 津 圭太郎(福岡県司法書士会) 島 田 直 明(福岡県司法書士会)
高 木 佳世子(福岡県弁護士会) 高 木   誠(福岡県司法書士会)
谷 崎 哲 也(福岡県司法書士会) 中 村 優 子(福岡県司法書士会)
花 田 貴 之(福岡県司法書士会) 濱 田 なぎさ(福岡県司法書士会)
平 石 健太郎(福岡県司法書士会) 松 岡 由起子(福岡県司法書士会)
安河内   肇(福岡県司法書士会) 山 田   泉(福岡県司法書士会)
横 山   茂(宮崎県司法書士会) 芝 田   淳(鹿児島県司法書士会)
大 井   琢(沖縄弁護士会) (以上81名)

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