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【怒】ホームレスに違法な対応を行う台東区に対する意見書

意 見 書

平成20年11月5日

台東区 区長 吉 住   弘 様
台東区福祉事務所 所長 笹 田   繁 様


私たちは,ホームレス問題,貧困問題,生活保護問題に関心を寄せる弁護士・司法書士です。
ところで,貴庁においては,平成20年10月27日から,「一般の業務に対し支障を来す」ことを理由に,①ホームレス状態にある要保護者に対しては,生活保護の申請があっても,1日10人まで制限を設けて,急迫状態にあるかどうか調査することなく,それ以上の面接をしない。②ホームレス状態にある要保護者から生活保護の申請があった場合には,現物給付の緊急宿泊施設以外の待機を認めない。という運用を開始しました。

上記の運用は,以下に指摘するとおり明らかに違法なので,本書をもって意見を呈し,その是正を求めます。
なお,貴庁の明らかに違法な運用は,可及的速やかに改善されるべきであるので,本意見はこれを公開します。


1.貴庁の運用はホームレスへの差別を伴う申請権侵害です

(1) 台東区福祉事務所からの説明によると,「一般の業務に対し支障を来すため」面接人数に制限を設けるとのことでした。しかしながら,このような運用はすべての人に生活保護の申請権を認めた生活保護法(以下,単に「法」といいます。)2条,7条に明らかに反するのみならず,ホームレス状態にあることを理由に他の人と区別し,制限を設けることは法の下の平等を定めた憲法14条1項に反し,憲法第25条の理念を具体化させた法律である法2条に明確に謳われる無差別平等原則にも反するものであり,明らかに違法な運用です。
言うまでもないことですが,地方自治体たる貴庁には,ホームレスに対する偏見や差別意識を解消し,人権尊重思想の普及高揚を図るための策を施す責任があります。本件運用は,その責任を忌避するのみならず,ホームレス状態にあることをもって劣等処遇することを組織として決していることに他ならず言語道断なものです。
仮に,説明の趣旨がホームレス状態にある人を含めての,新規の生活保護の申請一般についてのものであると解したとしても,結果として,相当人数しか面接ができなかったのであればまだしも,はじめから人数を制限することは,それ自体申請権の侵害であり違法です。


2.貴庁は急迫性について十分な調査をし必要な場合にはただちに保護開始すべきです
(1)法25条1項は,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の実施機関はすみやかに職権を発動して保護を適用することを義務づけています。このことは,法4条3項の規定から,その者が保護の要件を欠いている場合も同様です。したがって,保護申請を行った者が社会通念上放置し難いと認められる状況にある場合は,資産調査等が未済でまだ保護の要件が確認できていなくても,保護の実施機関である福祉事務所はすみやかに開始決定を行う義務があります。急迫した要保護者に対する保護の適用については,いささかの懈怠も許されず,福祉事務所は直ちに保護の開始決定を行わなければなりません。
この点,いわゆるホームレス状態にある人たちは,憲法25条第1項に定められた健康で文化的な最低限度の生活を維持する居宅,食料,収入を得ることができないことは明らかです。このまま路上に放置することは,彼らの体力は衰えるばかりであり,生命の危険も十分に認められるところであります。

(2)仮に,ホームレス状態にあることが直ちに急迫状態にあるとはいえないとしても,保護の実施機関としては,最低限,急迫状態にないことを面接等により確認する必要があります。貴庁の今回の対応は,はじめより面接人数を制限していることからも明らかなように,そもそも急迫性の有無すら調査していないのですから,法4条3項及び25条1項から導き出される責任を放棄しているといえ違法です。
  しかも,10月27日に生活保護申請をした後に,路上で待機することを余儀なくされた当事者の中には,結核を罹患している者がおります。その者に対しても,要保護状態にあることを知りながら調査をせず医療の提供をしなかったのでありますから,その不作為に対する責任は重大かつ深刻です。


3.貴庁の運用は住所がないことを理由とする劣等処遇を強いるものです。

(1)生活保護法は住居を有しない人を保護の対象者として予定しており(同法19条2項2号),その場合の都道府県と区市町村間の費用の分担に関する規定を設けています(法73条1項)。この点は厚生労働省も「居住地がないことや稼働能力があることのみをもって保護の要件に欠けるものではない」という通知を繰り返し出しています。

(2)一部地方自治体では,具体的に保護を開始すべき場所がないことを理由に,緊急宿泊所への入所がなければ生活保護を開始できないと虚偽の説明しているようですが,住居のない人に対する保護は「現在地保護」となり,その人が現在いる場所を所管する福祉事務所が管轄の実施機関となります(法19条1項2号)。また,テント等を有しないホームレスの方で転々と各地を移動している方に対して,今現在福祉事務所の窓口にいることから福祉事務所の所在地を「現在地」として保護を開始した例も多数あります。

(3)特に,生活保護法30条1項本文は,「生活扶助は,被保護者の居宅において行うものとする」として,居宅保護の原則を宣明しています。そして,同条但書きは,「これによることができないとき,これによっては保護の目的を達しがたいとき,又は被保護者が希望したときは,被保護者を(略)適当な施設に収容し(略)て行うことができる」として,収容保護はあくまでも例外であることを明らかにしています。

(4)このように,生活保護法が居宅保護を原則としたのは,施設での集団生活ではなく,居宅での生活を望むのが人として当然の心情であり,地域社会の中で自らの意思決定のもと人間らしい生活をおくることこそが「自立の助長」という生活保護法の目的を達成するためにふさわしいからです。

(5)また,同条2項は,「前条ただし書の規定は,被保護者の意思に反して,入所(略)を強制することができるものと解釈してはならない」とし,居宅保護が収容保護かを選択するにあたっては,「収用保護を拒否する要保護者ないし被保護者が,意に反する収用保護を受け入れるか,さもなければ保護を受けることを断念するかという選択を強いられる事態を可能な限り避ける」ための最大限の配慮を要するかであって(大阪地裁判決平成14年3月22日(「賃金と社会保障」1321号10頁参照),被保護者の意思を尊重すべきことをこれ以上ないほど明確にしている規定です。

(6)この理は,住居を有しないホームレスの人であっても当然に妥当し,住居のない人が居宅保護を望んだ場合には,敷金等の住宅費を支給して住宅を確保し,さらに布団代,被服費,家具什器代の生活費を支給して,居宅での生活保護を開始すべきが法の建前です(この点,前掲大阪地裁判決平成14年3月22日も「要保護者が現に住居を有しない場合であっても,そのことによって直ちに同項にいう『これによることができないとき』に当たり,居宅保護を行う余地はないと解することは相当ではない。」と明確に判示し,控訴審の大阪高裁判決平成15年10月23日(「賃金と社会保障」1358号10頁)もかかる判断を是認しています。)。

(7)法は,金銭給付を原則としています。その理由は,居宅保護を原則とすると同様に,保護の目的を達成できる範囲においては,可能な限り要保護者の自由処分を認め人権を尊重するための配慮からであり,生活保護開始決定までの期間内であったとしても,申請人の自由を廃して,収容以外の方法でなければ一切の給付をしないという対応は誤りであることは,このことからも明らかです。

4.法に基づいた適正な運用を求めます

 以上のとおり,貴庁の今回の運用は,生活保護法に照らし,重大な疑義があると言わざるを得ません。
 私たちは,法律専門家の立場から,貴庁に対し,生活保護法に基づいた適正な運用を行うよう要望いたします。

以 上

賛同者一同(51名)

飛鳥井 行 寛(埼玉司法書士会)
東   奈 央(第二東京弁護士会)
安 藤 剛 史(東京司法書士会)
安 藤 信 明(東京司法書士会)
安孫子 理 良(東京弁護士会)
石 井 寛 昭(東京司法書士会)
江野尻 正 明(大阪弁護士会)
大 冨 直 輝(東京司法書士会)
長 田 悦 子(埼玉司法書士会)
小 澤 吉 徳(静岡県司法書士会)
大 谷   潔(神奈川県司法書士会)

角 田 正 志(福島県司法書士会)
木 谷 公士郎(兵庫県司法書士会)
木 下   徹(東京弁護士会)
久保山 且 也(佐賀県司法書士会)
楠   高 志(札幌司法書士会)
後 閑 一 博(東京司法書士会)
小 島 好 己(東京弁護士会)
古根村 博 和(神奈川県司法書士会)
小久保 哲 郎(大阪弁護士会)

酒 井 恵 介(東京弁護士会
酒 井 健 雄(第二東京弁護士会)
佐 野 就 平(京都弁護士会)
芝 田   淳(鹿児島県司法書士会)
白 井 晶 子(第二東京弁護士会)
菅 本 麻衣子(広島弁護士会)
杉 本   朗(横浜弁護士会)
鈴 木 順 平(愛知県司法書士会)
関 根 圭 吾(東京司法書士会)

戸 舘 圭 之(第二東京弁護士会)

中 川 素 充(東京弁護士会)
中 村 守 男(熊本県司法書士会)
西 田 美 樹(東京弁護士会)
西 野   智(京都司法書士会)

濱 田 なぎさ(福岡県司法書士会)
早 坂 智佳子(山形県司法書士会)
林     治(東京弁護士会)
舟 木   浩(京都弁護士会)
福 原 正 和(千葉司法書士会)

丸 山 由 紀(東京弁護士会)
村 上 美和子(東京司法書士会)
森 川   清(東京弁護士会)
森 川 文 人(第二東京弁護士会)

谷 崎 哲 也(福岡県司法書士会)
山 本 栄 一(東京司法書士会)
山 本 志 都(東京弁護士会)
山 内 隆 之(東京司法書士会)
吉 田 悌一郎(東京弁護士会)
吉 田 雄 大(京都弁護士会)

力 丸   寛(東京司法書士会)

渡 邉 恭 子(東京弁護士会)


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