緊急事態宣言下の緊急保護に関する要望書
厚生労働大臣 加 藤 勝 信 殿
東京都知事 小 池 百合子 殿
豊島区長 高 野 之 夫 殿
<担当部局>
厚生労働省社会・援護局保護課 御中
東京都福祉保健局生活福祉部保護課保護担当 御中
同指導担当 御中
豊島区保健福祉部生活福祉課 御中
要 望 書 ←PDF
2020(令和2)年5月3日
〒160―0004
東京都新宿区四谷3−2−2TRビル7階
マザーシップ司法書士法人内
ホームレス総合相談ネットワーク
連絡先 03―3598−0444
同事務局長 弁護士 髙 田 一 宏
弁護士 山 川 幸 生
司法書士 後 閑 一 博
同事務局次長 司法書士 笠 井 真 悟
司法書士 力 丸 寛
司法書士 藤 木 誉 行
司法書士 福 井 裕 菜
相談員 市 橋 亮
第1 要望の趣旨
- 厚生労働大臣及び東京都知事は、生活保護法第23条第1項及び同条第2項に基づき豊島区に対して、監査及び指示を行うことを求めます。
- 厚生労働大臣及び東京都知事は、直ちに、すべての保護実施機関に対して、この連休を含め夜間休日であっても、生活保護法上の申請があった場合には、憲法第25条、生活保護法第1条ないし第4条の原理に則り、要保護者に対する必要な保護を欠くことがないよう周知徹底してください。
- 豊島区は、令和2年5月2日生活保護法第7条に基づき、生活保護の申請をした要保護者に対して、生活保護法第9条に反し、令和2年5月2日から同月6日まで必要な保護を行おうとしなかったことを反省し、再発防止策を講じてください。
第2 要望の理由
- 事実の経緯
- ホームレス総合相談ネットワーク(以下、「当団体」といいます。)は、2020(令和2)年5月1日、翌日の同年5月2日に東日本旅客鉄道株式会社池袋駅周辺のアウトリーチ活動を行うこととし、同地区を管轄する豊島区保健福祉部生活福祉課(豊島区福祉事務所)に対し、その旨を通知するとともに、生活保護申請があった場合には、厚生労働省・東京都の通知等に従い、閉庁中であっても生活保護申請を受け付け、申請者の当面の生活費・ビジネスホテルの宿泊費についてその場で速やかに交付できるよう、予め準備をお願いすること及びくれぐれも、閉庁中であることを理由に、申請者を追い返すことのないよう、休日・夜間窓口の職員への情報共有を徹底する旨の事務連絡をファクシミリ文書にて行いました。
- 当団体は、本年5月2日、東日本旅客鉄道株式会社池袋駅周辺のアウトリーチを実施し、午後2時頃、本件申請者と出会いました。本件申請者は、失職中で、同日までの約1ヶ月間、東日本旅客鉄道株式会社池袋駅構内と構外を行き来する生活を余儀なくされており、所持金はわずか130円でした。
- 当団体は、本件申請者からの生活保護を利用したい旨の申し出を受け、福祉事務所へ提出するための生活保護申請書への記入を済ませ、同日14時40分頃、本件申請者に同行する形で生活保護を担当する豊島区保健福祉部生活福祉課(豊島区役所東池袋分庁舎)を訪れました。
- 本件申請者は、自らの生活保護申請書を豊島区役所東池袋分庁舎の一階受付窓口に提出しました。そうすると、窓口の警備員はいったん書類を受領したものの、生活保護申請にかかる申請書を受けることのできる権限がないという趣旨の理由を述べ、本件申請者の提出した生活保護申請書の受領を拒絶しました。当団体としては、生活保護申請にかかる申請書を豊島区が受理しないことについて抗議したところ、担当した警備員は豊島区の総務課の指示を仰ぐ旨を回答しました。
- ところが、担当した総務課は、本日は閉庁しており生活保護の申請を受けることはできない、連休明けの対応になる旨の対応に終始しました。当団体は、厚生労働省・社会・援護局保護課及び東京都福祉保健局生活福祉部保護課保護担当に架電したところ、それぞれ他部署の係員に対応いただき、同日15時50分頃、東京都から当団体に対し、「さきほど豊島区総務課に対して同区保健福祉部生活福祉課相談係係長(以下、「相談係長」といいます。)へ連絡し、至急対応するようにとの指示を出しました」との回答を得ました。
- そして、同日15時55分頃、相談係長から当団体の事務局長である髙田に対し、豊島区役所本庁舎の夜間・休日窓口にて本件申請者の生活保護申請を受け付ける旨の連絡がありました。そのため、本件申請者及び当団体の相談員らは豊島区役所本庁舎へ移動し、同日16時12分、豊島区役所本庁舎の夜間・休日窓口に生活保護申請書を提出しました。
- ところが、豊島区役所本庁舎で対応した豊島区総務課の係員2名は本件申請者の提出した生活保護申請書について「豊島区として預かる」との対応に終始し、本件申請者に対して必要な保護を実施しない旨を述べました。当団体の相談員らは、本件申請者に対する生活保護の実施責任が豊島区に発生していること等を根拠に豊島区総務課の対応に抗議しました。当団体から抗議を受けた総務課の職員らは再度前記相談係長への指示を仰いだようですが、相談係長は当初、「申請書は預かるが、豊島区としてこれ以上の対応はできない」旨の回答を総務課の職員を介して伝えるのみでした。これに対し、当団体の相談員らが再考を促した結果、同日16時45分頃、相談係長から高田に対して再度架電がありましたが、内容としては変わらず、保護申請書を受け取るが、それ以上の対応はできないというものでした。同日17時30分頃には、生活福祉課長からも電話がありましたが、相談係長と同様の対応に終始するものであり、具体的には、現時点で豊島区として対応できる支援は夜間・休日窓口に備蓄したクラッカーを給付するのみであり、たとえ所持金が130円であったとしても、どこに宿泊するのかも含めて教示・対応することはせず、本件申請者自身で考えていただくしかない旨を述べました。なお、相談係長と生活福祉課長のいずれの回答も、本件相談者と面談をすることなくなされたものです。
- その後、18時30分頃、生活福祉課長から髙田に対し、生活福祉課長と相談係長を含む係長2名が豊島区役所本庁舎に来庁するとの電話あり、19時25分頃、生活福祉課長及び係長2名が豊島区役所本庁舎に到達し、同課の保護を担当する係長(以下、便宜的に「保護係長」という。)による本件申請者の面談が実施されることになりました。相談を実施するにあたり、相談係長が本件相談者の検温を複数回実施したところ、いずれも37度前後を記録したため、本件申請者の希望もあり、同日20時00分頃、本件申請者に対し、福祉事務所が開庁する本年5月7日の朝までの間、豊島区内のビジネスホテルに宿泊する支援が決定されました。合わせて、5月7日までの間の必要な生活費についても支給されることが決定しました。
- 保護係長が本件申請者をビジネスホテルに案内するため退庁し、その後当団体と生活福祉課長、相談係長との間で今後の運用について協議の場が持たれましたが、豊島区としては今回の対応は例外的な対応であり、常に今回のような対応を取ることは難しい旨を述べるとともに、あと4日を残す大型連休中の対応についても現時点では明言できず、検討させてほしいという回答に終始したため、その場は解散となりました。
- 情勢
(1) 国は、国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあり、かつ、全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがある事態が発生したと認め、2020(令和2)年年4月7日新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24 年法律第 31 号)第32条第1項の規定に基づき、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を発しました。これを受け東京都は、生活の維持に必要な場合を除き、原則として外出しないこと、施設の使用停止及び催物の開催の停止することなどを骨子とする要請を行うなどの措置を講じました。
(2) 緊急事態宣言に伴う、国民に対する行動制限、催事及び事業の営業等の停止の要請により、経済は悪化し、当団体らも参加する「コロナ災害いのちとくらしを守るなんでも電話相談会実行委員会」が、本年4月18日、19日に実施した電話相談会には、「外出自粛・休業要請で仕事と収入が途絶え、今月又は来月の家賃(自宅・店舗)やローン(住宅・事業)が支払えない。生活費も底をつく」という“崖っぷち”の切迫した相談が5009件寄せられるなど、深刻さを極めています。
(3) 当団体らの要望もあり、国は、本年3月10日付「新型コロナウイルス感染防止等に関連した生活保護業務及び生活困窮者自立支援制度における留意点」、本年4月7日付「新型コロナウイルス感染症等のため生活保護業務における対応について」などの事務連絡を発し「必要な方には確実に保護を実施する」ことを明確に要請しています。とりわけ、本年3月10日付事務連絡では、適切な保護の実施という項目が掲示され、「面接時の適切な対応としては、相談者の状況を把握した上で、他法他施策の活用等についての適切な助言とともに、生活保護制度の仕組みについて十分な説明を行い、 保護申請の意思を確認されたい。また、申請の意思が確認された方に対しては、速やかに保護申請書を交付するとともに申請手続きの助言を行う必要があることから、保護の申請書類が整っていないことをもって申請を受け付けない等、法律上認められた保護の申請権が侵害されないことはもとより、侵害していると疑われるような行為も厳に慎むべきであることに留意願いたい」とし、また、「速やかな保護決定」との項目においては、「生活に困窮する方が、所持金がなく、日々の食費や求職のための交通費等も欠く場合には、申請後も日々の食費等に事欠く状態が放置されることのないようにする必要がある。そのため、生活福祉資金貸付制度(緊急小口資金)等の活用について積極的に支援し、保護の決定に当たっては、申請者の窮状にかんがみて、可能な限り速やかに行うよう努めること」と周知されています。
(4) また、悪化する経済を背景として、居所を失った方、生活に困窮した方への対応が至急必要となることがあるとして、連休中における保護について、国は4月27日付「本年の大型連休における生活困窮者支援等に関する協力依頼について」を発し、連休中の相談体制の確保について、通知を発しています。すなわち、当該通知は実施主体に対し、「こうした状況の中、本年5月2日から6日までの5連休において、今般の新型コロ ナウイルスの影響により、居所を失った又は居所を失うおそれのある方、その他の生活に困窮した方への対応が至急必要となることがあると考えられます。また、住居確保給付金の支給対象の拡大等に伴い、それらの相談への対応も求められるところてす。 このため、必要な相談体制か適切に確保てきるよう、特に相談か多く見込まれる自立相談支援機関の窓口や福祉事務所等の臨時的な開所、電話等による相談体制の確保、その他の地域における連絡体制の確保など、連休中の相談体制の確保について、管内自治体や委託事業者等の関係機関と連携し、地域の実情に応じて対応いただくよう、 お願いいたします」旨を要請しています。
(5) 東京都福祉保健局生活福祉部保護課長は、各福祉事務所長あての令和2年4月10日付け事務連絡「新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言に係る対応について」(宿泊場所の確保について)のなかで、「緊急事態宣言に係る施設の利用制限によりインターネットカフェ等の利用ができなくなった住居喪失者から貴福祉事務所が相談を受け、生活困窮者自立支援法主管部署と調整の上、保護の適用が必要と判断する場合は、以下の手順で進める(休日及び夜間の閉庁時に緊急一時宿泊場所の利用が必要となった場合も同様)。」としています。これは、休日・夜間の閉庁時であっても、要保護者について、宿泊場所を確保する対応をしなければならないことを明確にしたものです。
- 豊島区の違法・不当な対応について
(1)生活保護法は、1条ないし4条において、その原理を定め、憲法25条に基づき、国に必要な保護を行うことを義務づけています。また、法第19条により保護の決定及び実施は、実施機関が行わなければならないとされていますところ、本件申請者の申請は豊島区に対してなされており、保護の実施機関は、豊島区であって、実施責任が生じることになります。この点について、国は、前記本年3月10日付事務連絡において、相談者の状況を把握し、生活に困窮する方が、所持金がなく、日々の食費や求職のための交通費等も欠く場合には、申請後も日々の食費等に事欠く状態が放置されることのないようにする必要がある旨を周知していますところ、この理は保護の実施機関が閉庁中であることをもって失われるものではなく、ましてや保護の実施機関が閉庁中であることをもってその対応がおざなりになることが許容されたり、実施責任が免責されるものではありません。現に、国は実施主体等に対し、本年4月27日付事務連絡をもって「必要な相談体制が適切に確保できるよう、特に相談が多く見込まれる自立相談支援機関の窓口や福祉事務所等の臨時的な開所、電話等による相談体制の確保、その他の地域における連絡体制の確保など、連休中の相談体制の確保」を周知・要請していました。
(2) ところが、豊島区は、その根拠及び理由を示すことなく、また本件申請者の急迫性について何らの調査をすることなく、本年5月7日まで保護しないことを組織として決定したと本件申請者に伝え、現時点での必要な保護はクラッカーの支給のみであると説明するなど、約5時間もの間、必要な保護の実施責任を放棄しました。
(3) また、豊島区福祉事務所(豊島区役所東池袋分庁舎)には、豊島区の委託を受けた警備会社の警備員しか常駐せず、当該警備員らに対し、大型連休中における生活保護の申請窓口が本庁舎にあることを始めとする生活保護申請があった場合における対応指針等を全く伝えず、事実上本件申請者の申請権を侵害しました。
(4) 生活保護の申請は、夜間・休日であっても受理されなければならないことは当然ですが、保護の実施責任を負う実施主体としては、申請を受理した場合には、あわせて必要な調査をその場で行うとともに、状況に応じて必要な保護を直ちに行わなければ法の目的を達成することなどできません。現に、本件では生活福祉課長及び係長2名計3名が来庁し、来庁後は速やかに豊島区内のビジネスホテルを確保でき、また生活費の交付も実現したのでありますから、上記の措置が本件申請者にとって当面必要な保護であったことは明白です。生活福祉課長らは、今回の対応が例外的な対応であるかのような回答を当団体に対して行いましたが、どの申請者が申請に訪れても必要な保護は直ちに講じられるべきであり、少なくとも保護申請を受け付ける場所を教示することや当該受付場所において必要な保護を行える担当者を常駐させたり、常駐が難しければ電話等で随時必要な対応ができるよう体制を整えておくことは可能だったはずであり、これらの対応をしなかった豊島区の対応は明らかに不適切な対応と言わざるを得ません。
- まとめ
豊島区は、緊急事態宣言発令下において、国や都の通知を無視し、必要な準備を怠り、また、当団体からの法律や通知の内容についての詳細な説明を聞いても、なお保護の決定は実施機関にあるとうそぶき、6日の間なんらの保護も行わないことを組織としての決定であると説明したのであり、豊島区の行為はきわめて悪質性がが高いと断じざるを得ません。
また、本件により、連休中の保護の相談体制が確保されていないことが露呈したのであるから、国は直ちにすべての保護の実施機関に、必要な保護を欠くことにならないよう措置を講じることを徹底してください。
以上
あなたは困っていませんか? 生活相談ダイヤルのご案内です。
れいわ新撰組の公式Twitter及びホームページで、困ったときの生活ダイヤルとして、ホームレス総合相談ネットワークの相談ダイヤルが紹介されています。
0120-843-530
緊急事態宣言下、時間を延長して可能な限り相談をお受けしています。
ホームページ https://reiwa-shinsengumi.com/reiwanews/4720/
ツイッター https://twitter.com/yamamototaro0/status/1252610466133622785
新型コロナウイルス感染症の影響で生活困窮した方へ(電話相談拡大のお知らせ)
【拡散希望】0120-843-530(平日午前11時から午後5時)
ホームレス総合相談ネットワークは、コロナウイルス感染症の拡大に伴う緊急事態宣言を受け、フリーダイヤルによる相談を拡大し平日毎日行うことにしました。生活にお困りの方はぜひ相談ください。
新型コロナウイルス感染症の影響で生活困窮した方へ
ホ総相有志により「新型コロナウイルス感染症の影響で生活困窮した方へ」というメッセージビデオを制作しいます。
今後も、次々とアップする予定ですのでぜひご覧ください。
~7~緊急に、マン喫・ネカフェを生活の本拠とする方につなげてください。
~4~生活保護制度の素朴な疑問
~3~コロナ問題が及ぼすDVへの影響について
~2~住宅を確保してください。
~1~生活保護のすすめ!
2020年3月16日要望書(コロナウイルス感染症の拡大に関する「緊急生活保護ホットライン」の結果を受けて)
内閣総理大臣 安倍晋三 殿
厚生労働大臣 加藤勝信 殿
内閣府特命担当大臣(経済財政)西村康稔 殿
財務大臣兼内閣府特命担当大臣(金融)麻生太郎 殿
要 望 書 ←(PDF)
2020(令和2)年3月16日
ホームレス総合相談ネットワーク
同事務局長 弁護士 髙 田 一 宏
弁護士 山 川 幸 生
司法書士 後 閑 一 博
司法書士 笠 井 真 悟
司法書士 力 丸 寛
弁護士 猪 股 正
弁護士 小 林 哲 彦
司法書士 吉 田 真理子
司法書士 半 田 久 之
司法書士 加 藤 裕 子
司法書士 後 藤 三樹子
社会福祉士 藤 田 孝 典
第1 要望の趣旨
1 国は、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対策の一環として、生活資金の逼迫・枯渇を原因とする生活保護申請については、生活保護法第4条第3項の「急迫した事由がある場合」に該当するものとして幅広く認め、速やかに保護を開始するよう、保護の実施機関に通知し、周知徹底してください。
2 国は、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、銀行等の金融機関に対し、住宅ローン・自動車ローン・カードローン等の各種借入債務の支払猶予を行うよう、早急に要請してください。
3 国は、新型コロナウイルスの影響による休業、休暇その他労働時間の減少による賃金の減少に対する助成金(給付)について、新型コロナウイルスの影響による賃金の減少全般に適用するよう適用範囲を拡大するとともに、労働者等が直接申請できるように制度を変更してください。
第2 要望の理由
1 緊急生活保護ホットラインの報告
ホームレス総合相談ネットワークは、2003(平成15)年2月に発足した任意団体であり、弁護士・司法書士を中心とした100名の相談員で構成されています。
主な活動内容は、ホームレスの方々への相談活動(電話相談や出張相談を含む)を中心とする活動を行なっており、ときには生活保護法の運用や生活困窮者自立支援法に基づく自立支援等の貧困問題に関する諸政策が適切になされるよう注視・提言するといった活動を日々行なっております。
昨今、新型コロナウイルス感染症の影響等により、収入等が減少したことにより、事業者・消費者問わず、家計における生活資金が逼迫・枯渇する現象が生じております。
このような事態に対応するため、ホームレス総合相談ネットワーク及び困窮者支援にかかわる弁護士・司法書士・社会福祉士(以下、「当団体」という。)は、2020(令和2)年3月15日、緊急生活保護ホットライン(以下、「ホットライン相談」という。)を実施しました。
ホットライン相談には、全国から、1日だけで120件の電話相談が寄せられ、新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの方々が生活に困っていることが分かりました(詳細については、追って報告いたします)。
2 急迫保護の活用
ホットライン相談の多くが生活資金の逼迫・枯渇を訴えるものであり、当団体としては、相談者らの世帯収入が最低生活費を下回るものについては生活保護制度を利用できるものと考えますが、ホットライン相談の中には、住宅ローンを支払っている世帯や、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける以前の平常時の収入は生活扶助基準を上回っている世帯からの相談も複数寄せられ、相談者らが生活保護制度の申請を躊躇してしまう状況が伺えました。
しかし、相談者らの世帯に現金がなく、一時的に世帯収入が減少して最低生活費を下回るものである以上、その生活の保障としては、生活保護制度の利用が最も有効です。ローン付きか否かに関わらず、不動産・自動車等の資産を所有している場合を含め、預金等の即時活用できる資産・能力がなく、かつ手持ち現金が乏しい場合には、急迫した事由があるもの(生活保護法4条3項)として幅広く認め、保護を開始すべきです。
厚生労働省は、この点を明確にし、生活に困窮している世帯の保護を積極的に行うよう、全国の福祉事務所に対して通知すべきです。
3 金融機関等に対する支払猶予の要請
ホットライン相談においては、収入の減少に加え、住宅ローンやカードローン等の各種ローンの請求がさらに家計を圧迫しているという相談が数多く寄せられました。中には、収入の激減に伴い、世帯の生活費を確保するだけで精一杯の状態であり、とても各種ローンの支払いまでは手が回らないとの相談も相当数寄せられました。
一時的な収入減少のため急遽資金繰りが悪化したような場合には、すぐに自己破産の申立て等の法的整理を行うのは適当ではありません。債権者らが各種ローンの支払いを一時的に猶予する等の対応を行うことで、期限の利益の喪失という事態に至ることを防止することができ、家計のやり繰りを後押しすることができると考えられます。
そのため、国が銀行を始めとする金融機関等に対し、新型コロナウイルス感染症対策の一環として、各種ローンの支払猶予を積極的に認めるよう要請すべきです。
なお、当団体の上記要請は、経済的弱者の生活を崩壊させないことを目的とするものであり、国が全国銀行協会及び各金融機関等に対し、各種ローン等の支払猶予を行うよう求めることで十二分に達成できると考えております。上記要請は、新型インフルエンザ等特別措置法58条1項の「政令に基づく金銭債務の支払いの延期及び権利の保存期間の延長について必要な措置」を求めるものではなく、ましてやそのために「緊急事態宣言」(同32条1項)を出すことについても当団体は断固反対いたします。
4 労働者からの賃金等保証制度にかかる支給申請を認める制度設計を迅速に行うこと
相談では、国が実施している賃金に関する助成金制度は、学校の臨時休業等の場合に限られており、適用範囲が狭いという声が上がっています。
例えば、福祉施設に勤務している者が咳などの症状(ただし、新型コロナウイルス感染症の感染の有無は検査していないため、原因がわからないもの。)があるため自主的に休暇を取るような場合には、現行の助成金制度は全く適用の余地がありません。そこで、新型コロナウイルス感染症のために賃金が減少したすべての人に対し、賃金の減少分の補償が行われるよう、制度を改める必要があります。
また、すべての非正規労働者や、請負や業務委託等の形式で契約しているフリーランスの者(以下、正規労働者を含めて「労働者等」と総称する。)が特に影響を受けやすいことに鑑み、すべての労働者等について減収分を確保できるようにする必要があります。
さらに、賃金補償の給付においては、事業主からの助成金の申請だけでなく、労働者等が直接給付を申請することもできるよう制度を変更すべきです。事業主からの申請としたのでは、そもそも申請するかどうかが事業主次第ということになりかねず、また特定の事業主の下で労務等を提供する形態ではない労働者等が制度の対象外となってしまうからです。実際、相談者の中には、自分に助成金が適用されることになっても、自分の勤務先は申請をしてくれるような優しい会社ではないから、今の助成金制度のままでは自分の収入減は全く補償されないだろうという嘆きの声が上がっています。
新型コロナウイルス感染症対策としての休業や自粛等による生活資金の補償は、国民生活及び国民経済に及ぼす影響を最小限に抑えるための必要な措置であり、対策を進める政府の責任で的確かつ迅速な実施に万全を期すべきものです(新型インフルエンザ等対策特別措置法3条1項、同6項参照)。
政府の責任によって、生活が困窮・逼迫している労働者等の元に早急かつ確実に生活資金が届くことが重要であり、そのためにも労働者らからの直接申請を認めるべきです。
5 結語
よって、当団体は、関係機関に対し、要望の趣旨のとおりの対応を求めます。
以 上
緊急生活保護ホットライン
日時 令和2年3月15日(日)午前10時~午後9時
電話 03-3353-2221
新型コロナウィルス感染症は、今後、様々な経済活動に影響を及ぼしますが、まずは、いままですらぎりぎりの生活をしたいた方の今日・明日の生活をなんとかしなければなりません。
そこで、生活保護等の社会保障についての相談をお受けします。
2020年3月15日緊急生活保護ホットラインのお知らせ
2020(令和2)年3月7日
報道関係者各位
東京都新宿区四谷3-2-2TRビル7階
(マザーシップ司法書士法人内)
ホームレス総合相談ネットワーク
代表 弁護士 森川文人
事務局長 髙田一宏
及び困窮者支援にかかわる弁護士・司法書士
連絡担当 後閑一博 Tel 03-3598-0444
1 実施の趣旨
新型コロナウイルス感染症は、国内死者12人(3月6日現在/クルーズ船乗客含む)を数える大きな被害をもたらし、政府によるイベント自粛の要請、小・中・高学校の臨時休校要請があるなど、まさに緊急事態と化しています。
これに対して、政府は、臨時休校に伴い、保護者が仕事を休んだ場合に賃金を補償する制度を設けるなど様々な施策を講じ、講じようとしています。しかし、そもそもギリギリの生活をしている困窮者に対し生活が成り立ちうる補償となるか不透明なうえ、今ある現実の困窮を救済には間に合いません。
また、観光・飲食・イベントなどの事業は縮小し雇用状況は悪化しています。働きたくても働く場がない生活困窮者が増大する可能性が極めて高いといわざるを得ません。
そこで、緊急に、生活資金が不足する方を対象とした、生活保護、医療費の減免、生活困窮者自立支援施策など社会保障等についての相談会を実施します。
2 概要
(1)名称
緊急「生活保護ホットライン」
(2)日時
2020(令和2)年3月15日(日)午前10時~午後9時
(3)電話
03-3353-2221(4回線)
(4)相談会場
東京都新宿区四谷2丁目8番地 岡本ビル5階(505号)全国青年司法書士協議会事務局
面談による相談は行いません。
(4)実施主体
ホームレス総合相談ネットワーク及び困窮者支援にかかわる弁護士・司法書士
台東区避難所におけるホームレス排除について
台東区がホームレス状態にあった男性を避難所への避難させなかったことは、重大な人権侵犯にあたるので、これを救済するように求める人権侵犯救済申告を法務局人権擁護部に対して提出しました。
また、同旨の内容の人権救済申立を第二東京弁護士会人権擁護委員宛に提出しました。
人権侵犯救済申告書
2019(令和1)年10月24日
東京法務局人権擁護部 御中
〒**************(住所)
〒**************(居所)
申告人 ****(昭和**年**月**日生)
〒171-0014 東京都豊島区池袋2丁目55-13合田ビル2階
池袋市民法律事務所
申告人代理人 弁護士 髙 田 一 宏
〒115―0045 東京都北区赤羽2-62-3
マザーシップ司法書士法人(連絡先・送達場所)
同代理人司法書士 後 閑 一 博
TEL 03-3598-0444/FAX 03-3598-0045
〒110−8615 東京都台東区東上野4丁目5番6号
被申告人 台東区
上記代表者区長 服部征夫
第1 申告の趣旨
被申告人台東区が、令和元年10月12日、台風19号の風雨の中、同区内の避難所である忍岡小学校に避難に訪れた申告人に対し、台東区に住民登録がないことを理由として、避難をさせずに追い返したことは、申告人の生命、身体を侵害する人権侵害行為であると認め、被申告人に対し、説示・勧告を行うなど適切な措置を講じること
を求める。
第2 申告の理由
1 はじめに
令和元年台風19号(アジア名ハギビス)は、2019(令和1)年10月12日19時頃に強い勢力を保ったまま静岡県伊豆半島に上陸し、その後首都圏を通過した。記録的な大雨となり、静岡県、神奈川県、東京都、埼玉県、群馬県、山梨県、長野県、茨城県、栃木県、新潟県、福島県、宮城県に特別大雨警報が発令され、同年10月18日午前11時56分の時点で全国で78人が亡くなり、9人が行方不明となる甚大な被害をもたらした。本申立は、この歴史的未曾有の大災害に関連する人権侵害の事案である。
2 事実経過
(1)申告人の経歴について
申告人は60歳代の男性である。本年9月8日頃までは、住所地で生活していたが、約4年前頃に脳梗塞を発症し、その後遺症として、記憶障害、構音障害を自覚するも住所地の医療機関では十分な治療が受けられないと考え、医療機関が充実する東京にやってきた。しかし、どうすれば医療が受けられるかわからないままおよそ一ヶ月が経過し、主に、上野公園にある******の裏手で寝泊まりすることを続けていた。
(2)本年10月11日の出来事
そのような中、本年10月11日午後7時30分頃、申告人は、申立代理人らの訪問を受けた。申立代理人らは、申告人から事情を聞き取ったうえ、「治療が必要なのであれば、生活保護を受給し、医療を受けるべきだと」アドバイスをしたうえ、至急保護を開始すべきとする意見書(疎明資料1)を申告人に交付した。
また、台風19号がこれまでにないほど危険な状態で上陸する可能性が高いこと、この近辺では「忍岡小学校」(以下、「本件小学校」という。)が避難所となっていること、及び本件小学校はすでに自主避難を受け入れていること、の説明を受け、避難を促された。
なお、申立代理人らは、同日7時過ぎ頃、台東区役所の夜間窓口を訪れ、解放している避難所について問い合わせを行い、本件小学校を含む4箇所の避難所がすでに自主避難を受け入れていることの教示を受けた。また、申立代理人髙田は、同日8時30分頃、上野駅周辺において申告人とは別の方からの相談を受けた際、本件小学校に架電し、ホームレスの方の自主避難について受け入れてもらえるかどうかの問い合わせを行った。
この問い合わせに対応したのは、本件小学校の教員ないし職員と思われる女性だったが、一応地区制になっている旨を述べたものの、「住所がない方ですもんね」と回答し、本件小学校に避難して来てもらって結構ですという旨の回答を申立代理人に対して行っていた。
(3)本年10月12日の出来事
申告人は、10月12日午前9時頃、本件小学校を訪れた。そうすると、管理者と名乗る人物から避難者カードを示され、住所を書くように指示を受けた。これに対して、申告人は当該管理者と名乗る人物に対し、自身の住所は***にあることを伝えたところ、当該管理者と名乗る人物は「都民以外はだめです。」と、即時に回答して申告人の避難を拒絶し、申告人は本件小学校からの退去を余儀なくされた。
申告人は、やむなく10月12日は、できる限り風雨がよけられる場所を転々とし、夜は、******に2つのビニール傘を立てて、身を縮めて過ごした。
(4)台風通過後の出来事及び被申告人の対応
その後、申告人は、10月13日、同月14日を同様に******で過ごし、10月15日午前9時30分頃、台東区福祉事務所に生活保護の申請を行った。
しかし、体調が悪化し、声がでない状態となっていたことから、台東区福祉事務所が手配した緊急車両により、三井記念病院に搬送され、脳梗塞の疑いと診断され、構音障害を伴っていたことから緊急入院しとなった(疎明資料2)。
申告人の治療は現在も継続している。
なお、被申告人は、同月12日午後1時00頃、申立外「一般社団法人あじいる」に対し、本件小学校にいた区の職員からは「住所のない人は利用させないように命令を受けている。」と説明を行ったほか、同団体が災害対策本部に問い合わせると「台東区として、ホームレスの避難所利用は断るという決定がなされている」と説明を行った(疎明資料3)。
また、申立代理人後閑は、同月12日午後8時20分頃、被申告人の災害対策本部へ電話照会を行ったところ、「区民の方を優先して避難所を提供している。」「ホームレス状態の方が何人かいらしたがその旨説明したところ自主的に帰っていった。」「条例上の根拠は不明であるが、地域防災計画を根拠としており、これからも同様の説明をする予定である。」と回答している。
さらに、朝日新聞社の取材に対しては、「住所不定者をどうするかとの観点が抜けていた」「反省点とし、今後、住所不定者をどう援助できるかを検討する」と、回答したと報道されている(疎明資料4)。
3 わずかな時間に少数の者の恣意的判断で排除されていること
本件人権侵犯は、10月11日午後8時30分頃から翌12日午前9時00分頃までの間に、わずかな職員の恣意的な判断により行われた可能性が高い。
すなわち、先にも述べたとおり、申告代理人らは、10月11日午後7時過ぎ頃、被申告人の夜間窓口を訪れ、同災害対策本部に対し、避難所マップの交付を求めており、その際、ホームレス状態の人に避難の案内を行いたいと伝えている。そして、災害対策本部は、防災マップを持参し、忍岡小学校、谷中小学校、馬道区民会館、台東一丁目区民館の4か所が避難勧告等発令前の自主避難の受け入れ避難所であることを説明した。
また、同日午後8時30分頃、申立代理人髙田が本件小学校に架電したところ、本件小学校で対応した女性職員は、ホームレスの方であっても避難していただいて構わない旨の回答を行っている。しかるに、申告人が、翌朝本件小学校に避難を申し出た段階においては、担当した職員から、「住所が***は無理です」「都民以外はだめです」と即座に受け入れ拒否がなされている。
4 被申告人の人権侵犯該当性について
被申告人が、台風直撃のなか避難所に避難させなかったことが、重大な人権侵犯であることは、適用法令をあげるまでもなく明白であるが、上記のとおり、わずかな時間経過のなか少数の者の恣意的な判断で行われた差別であり、以下のとおり、法令違反も認められる。
(1)被申告人には保護義務があったこと
災害対策基本法(以下「基本法」)は、「人の生命及び身体を最も優先して保護すること」を基本理念としている(基本法2条の2第1項第4号)。また、市町村には、この基本理念にのっとり防災計画を作成し、実施する法的な義務がある(基本法5条)。
被申告人が、住民登録を基礎とする避難所の受け入れ体制について、申告人代理人らに説明した根拠は、この基本法に基づき、被申告人が作成した地域防災計画(以下「防災計画」)であると考えられる。
確かに、防災計画に、避難者名簿の記録が謳われているが、避難者名簿の記載した住所が区外にある場合、避難をさせないという明記はない。
それどころか、基本理念として、「区民や台東区に集う多くの人々の生命及び財産を守る」と謳い、避難所についても「東日本大震災の教訓から、遠隔地の被災者の受け入れを検討する必要がある。」と、住民登録を基礎としない避難者の受け入れを前提としており、防災計画を根拠とする受け入れ拒否は理由がない。
そもそも災害法規の基本的な法律である災害救助法は、「当該市・区の内において、当該災害により被害を受け、現に救助必要とされる者に対して、これを行う」(災害救助法第2条)としており、避難所についても「災害により現に災害を受け、又は受けるおそれがある者に供与する」(災害救助法の救助の程度、方法及び期間並びに実費弁償の基準第2条第1号イ )と、住民登録を条件としていない。
これら法令を踏まえ、国が策定した「災害救助の実務」は、明確に、避難所の供与の対象となる者として、「速やかに避難しなければならないときは、これらの者も等しく対象としなければならない。
例えば、旅館、ホテル等の宿泊者、一般家庭の来訪者あるいは通行人等で災害に直面し、応急にいるところがない者」と、住民登録がない者に対しても「避難所に受け入れなければならない」と明確に受入の義務を課している(災害救助の実務と運用-平成26年版-「災害救助実務研究会編著・第一法規」295頁)。
(2)ホームレスである故に排除されたという点につき看過できない違憲違法があること
被申告人は、上記保護義務があるにもかかわらず、住民登録がないことを理由に申告人の避難所の受け入れを拒否したが、実態は、ホームレスに対する偏見を基礎とする差別としての排除と言わざるを得ない。
すなわち、被申告人代表者区長は、10月15日、被申告人のホームページに「避難所での『路上生活者』の方に対する対応が不十分であり、避難できなかった方がおられた事につきましては、大変申し訳ありませんでした。」とコメントを発表している。
しかし、災害関係法においても地域防災計画においても、「人」「国民」「区民」などの使い分けはあるが、「路上生活者」という言葉は使われておらず、定義もされていない。人であるか否か、国民であるか否か、区民であるか否か、以外の判断基準を予定していないにもかかわらず、被申告人代表者区長のコメントは、路上生活者あるいはホームレスを、その状態や生活様式だけで区別し、結果的にも排除したことの自白以外のなにものでもない。
また、被申告人は、朝日新聞の取材に対し、「反省点とし、今後、住所不定者をどう援助できるかを検討する」と回答しているところ、被申告人地域防災計画は、平成28年に修正されておりその時点において「東日本大震災の教訓から、遠隔地の被災者の受け入れを検討する必要がある。」と検討課題とされていたことからすれば、この今後の検討は、路上生活者あるいはホームレスを対象とした検討に他ならず、その状態や経済状態に着目をし、新たな差別を検討すると応答しているようなもので到底許容できるものではない。
被申告人のこれまでの対応も、今後検討しようとしている対応も、社会的身分、門地、経済状況等により、差別し、差別しようとするものに他ならず、憲法14条に反し、違憲違法な人権侵犯行為である。
第3 結語
よって、速やかに、被申告人に対し、申告の趣旨記載の説示・勧告がなされるべきであり、重大な人権侵害であることを鑑み、再びこのような人権侵害が繰り返さないために、関係者に対し人権尊重の理念に対する理解を深めるための啓発を行うよう求める。
以 上
疎明資料1 令和1年10月11日付司法書士後閑作成による「意見書」
疎明資料2 病院「入院計画書」「診療情報提供所」
疎明資料3 令和1年10月21日付・一般社団法人あじいる外「要望書」
疎明資料4 2019年10月13日朝日新聞記事
「台東区の自主避難所、ホームレス男性の避難断る」
無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準案に関する意見
2019年(令和元年)7月5日
厚生労働省社会・援護局保護課保護事業室 御中
ホームレス総合相談ネットワーク
代 表 弁護士 森川 文人
事務局長 弁護士 高田 一宏
当ネットワークは、ホームレスの方への法的支援を行う目的で2003年に結成された団体であり、路上でのホームレスの方への法律相談等を通してホームレスの方の自立への支援や人権の擁護に取り組んでいる。当ネットワークは、今回パブリックコメントに出された「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準案に関する意見の募集について」(案件番号495190074)に対して、以下の通り意見を提出する。
第1 意見の趣旨
1 無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準案(以下「省令案」という。)第2条1号ハ、第7条1項4号、第9条2項1号、第14条のサービス提供に関する記載部分、第16条1項7号、及び同条2項7号をそれぞれ削除すべきである。
2 省令案第3条3項の「基本的に一時的な居住の場であることに鑑み」という文言は堅持し、同条4項の「独立して日常生活を営むことができる入居者」の後に「(介護保険法、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等に基づいて提供されるサービスを利用して独立して日常生活を営むことができる場合も含む。)」を付加する。
3 省令案第6条1項の「若しくは社会福祉事業等に二年以上従事した者又は同等以上の能力を有すると認められる者」を削除する。
4 省令案第12条6項1号ハただし書き、第19条ただし書き、及び附則第3条を、それぞれ削除する。
5 省令案第26条は、「入居者の金銭の管理は当該入居者本人が行う。」に変更し、無料低額宿泊所による金銭管理は認めないものとすべきである。
第2 意見の理由
1 有償サービスの提供について
今次社会福祉法改正により、無料低額宿泊所も社会福祉住居施設において「生計困難者に対して、その住居で衣食その他日常の生活必需品若しくはこれに要する金銭を与え、又は生活に関する相談に応ずる事業」(同法2条3項1号)を行うことができるようになったが、同事業は、「生活必需品もしくはこれに要する金銭」を「与え」る事業又は「生活に関する相談に応ずる事業」であり、金品もしくはサービス提供に対する対価を受け取ることは想定されておらず、許されない。
ところが、省令案では、逆に、利用料を受領してサービスを提供する施設を無料低額宿泊所の範囲に含めており、力関係及び情報に大きな格差がある事業者に抱え込むような有償サービス提供を認めると、利用者の独立を著しく妨げることになるので、サービス提供が必要な場合には外部の第三者においてなされるべきであり、省令案第2条1号ハ、第7条1項4号、第9条2項1号、第14条のサービス提供に関する記載部分、第16条1項7号、及び同条2項7号をそれぞれ削除すべきである。
2 居宅保護の原則
無料低額宿泊所は生活保護利用者の数の割合がおおむね50%以上とされていることからすれば(省令案第2条1項ロ)、生活保護法第30条1項に規定する居宅保護の原則が強く要請されるところであり、省令案第3条3項のように無料低額宿泊所が一時的な居住の場であることを明らかにした上で、力関係及び情報に大きな格差のある利用者の終の棲家にされないように同条4項を変更して多くの者が早期に離脱できるようにすべきである。
3 施設長の資格要件
特別養護老人ホーム、障害者支援施設、婦人保護施設等の施設長については、資格要件が省令に規定されており、例えば、特別養護老人ホームでは、①社会福祉主事資格者、②社会福祉事業に2年以上従事した者、③全社協講習修了者とされており、無料低額宿泊所においても、高齢者、障害者の利用が多く見込まれることを考えれば、施設長要件は明確にすべきである。
かつて劣悪施設において生活保護を利用しながら施設に入所している者を低賃金で他の施設の施設長をさせていたという事例も仄聞している。
省令案第6条1項では「社会福祉事業等に二年以上従事した者」「同等以上の能力を有すると認められる者」と規定されており、不明確であり、これでは施設長資格要件としては全くのザルでしかないので、同部分は削除すべきである。
4 施設の面積基準等について
無料低額宿泊所が一時的な居住の場であるとしても、単身者の最低居住面積水準(住生活基本法に基づいて定められた住生活基本計画)である25平方メートルを満たさないばかりか、例外とはいえ4.95平方メートル(省令案第12条6項1号ハただし書き)は狭すぎるものであり、さらに期限が全く付されない経過措置として3.3平方メートル(省令案附則第3条)とすることは容認できず、省令案第12条6項1号ハただし書き及び附則第3条について、強く削除を求めるものである。
また、入浴回数について、近時の夏の暑さは異常であり、真夏にも1週間に3回しか入浴できないとなると、衛生上及び健康上、多大な支障が生じるものであるから、1日1回の頻度の提供に例外を付すべきでないから、省令案第19条ただし書きを削除すべきである。
5 利用者の金銭管理について
力関係及び情報に大きな格差のある事業者において、利用者の金銭管理がなされると、ますますその力関係に大きな格差を生じることとなり、事業者において抱え込みがなされ、利用者の不満を押さえ込むこととなる。施設の劣悪化を強める方向に働くものであって、到底許容できない。金銭管理の支援が必要な利用者に対しては、社会福祉協議会が提供する日常生活自立支援事業等の利用によって対応すべきである。
以上
10連休中の生活保護について
厚生労働省社会・援護局保護課は、平成31年4月19日付け事務連絡「本年4月27日から5月6日までの連休における生活困窮者支援等に関する対応事例の周知について」により、生活保護担当あてに、
1.輪番制、緊急連絡網等による対応
2.緊急一時的な衣食住の提供
4.窓口の臨時的な開所
など、「支援を必要とする方に適切に支援が行われるよう」に、通知をしていますので、連休中に保護が必要になった方は、まずはお近くの福祉事務所(役所の夜間休日窓口)に相談に行ってください。
相談に行ったが、対応がないなどがあれば、ホームレス総合相談ネットワーク 0120-843530 に連絡ください。
路上からもできるわたしの生活保護申請ガイド(2017年版)
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「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」の見直し(案)についての意見
「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」の見直し(案)についての意見
ホームレス状態にある人のほとんどは、「健康で文化的な最低限度の生活」をはるかに下回る生活水準で暮らしている。こうした人々を支援する施策は、まず第一に、憲法25条(生存権)が保障する健康で文化的な最低限度の暮らしを確保すること、とりわけ、居宅を失っているのであるから、速やかに居宅を提供することでなければならないはずである。これらを端的に行うことができる制度が、生存権保障を具体化した生活保護である。
しかしながら、現行の「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」(以下、「基本方針」という。)は、生活困窮者自立支援法による生活困窮者一時生活支援事業(シェルター、自立支援センターへの入所など)などの支援が必要とするなど、生活保護の利用を推進するものとはなっていない。
今回の見直し案でも多少の表現の変更はあるものの、現行の記述内容が基本的に維持されている。
第1・第5段落では「生活保護が必要な者には、確実に生活保護を適用しつつ、生活保護の受給により居住場所等の確保に至る間、あるいは就労等による自立や地域において日常生活が継続可能となるまでの間は、困窮者支援法による一時生活支援事業をはじめとした就労や心身の状況、地域社会からの孤立の状況などに応じた包括的かつ早期の支援が必要である。」などとして、生活保護の利用を掲げながら、一方で生活保護とは異なる制度である自立支援センターへの入所を含む一時生活支援事業による「支援」を必要だとしている。この記述は、生活保護の申請を断念させるように仕向け、自立支援センターへの入所をすすめる違法な「水際作戦」を助長することにつながりかねない。
また、施設収容に関しては、第3・2・(7)・ア・(イ)の「居所が緊急に必要なホームレスに対しては、 シェルターの整備を行うとともに、 無料低額宿泊事業
(略) を行う施設を活用して適切な支援を行う。」との記述、第3・2・(7)・イ・(イ)の「ホームレスの状況(日常生活管理能力、金銭管理能力等)からみて、直ちに居宅生活を送ることが困難な者については、
保護施設や無料低額宿泊事業を行う施設等において保護を行う。」との記述も、維持されている。ホームレス状態の人々を施設に収容して、社会から隔離しようとする発想が根底にみられる。
そもそも、「居所が緊急に必要なホームレス」は、生活保護法25条1項の「要保護者が急迫した状況にあるとき」に該当する。よって、職権保護により速やかに生活保護を開始しなければならないはずである(もちろん、一時生活支援事業を検討すべき場合にはなりえない。)。保護を開始した場合には居宅保護の原則(生活保護法30条1項本文)が適用されるので、施設入所ではなく、居宅が提供されなければならない。
当団体は、これらの記述が今回の基本方針見直しの対象になっていないことに断固反対する。基本方針には、ホームレス状態の人々の生活再建のために生活保護の利用を大いに推進するとともに、施設収容主義を排し、速やかに居宅に居住して暮らせるような施策を盛り込むべきである。したがって、基本方針は、その基本姿勢を抜本的に見直す必要がある。
また、そもそも、基本方針の策定や改定に当事者の参画がなされていないことも問題である。すなわち障害者分野で理念として掲げられ、現実にそれに沿った運動や実務がなされている「Nothing About Us Without Us(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)」は、ホームレス問題でも当然妥当するものであるところ、今回の基本方針の改定に際しては当事者の参加が検討された形跡は認められない。基本方針の改定に当事者の参加が要請されることに加え、基本方針内の支援計画の作成に当たっては当事者が参加して支援計画が作成されることも明記すべきである。これは当事者の意思が無視される支援計画など無意味であり、むしろ有害だからである。
また、当団体としては、国が実施するホームレス調査のあり方にも疑問を持っている。
すなわち、平成28年10月に実施された「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)は、同年1月に実施した概数調査に基づき、目標数を設定しているところ、この概数調査自体昼間実施されたものであり、実際のホームレスの数を適切に把握していたとはいえない可能性がある。現に、民間団体による夜間調査で、自治体の把握している数の約3.3倍ものホームレスがいたことも報告されている。また調査方法も面談とあるが、対象者も事前に選定告知されており、恣意性も拭えず、適切な調査がされたとは言い難い。
ホームレスの数についての調査を行うのであれば当然ながら夜間に行うべきであるし、行政のみで精密な調査を行うことが難しいのであれば、民間団体や地域のホームレス支援団体に協力を仰ぎつつ、可能な限り正確な調査を心がけるべきである。
最後に、反排除についても言及しておきたい。基本計画に謳われるように、基本的人権の尊重は、日本国憲法の柱であり、民主主義国家の基本である。しかし、これらの人権を侵害する行為が行政によって行われてきた事実に目を背けてはならない。
具体的には、渋谷区が、平成22年9月15日早朝、渋谷区立宮下公園にホームレス状態にある人がいることを知りながら、多数の職員・警備員において公園をフェンスで取り囲み、公園内にいるホームレス状態の人を担ぎ上げるなど実力で排除した。この事実は、裁判により認定され、国家賠償が認められている(東京地裁平成23年(ワ)第13165号)。また同じく渋谷区は、平成24年6月11日早朝、渋谷区美竹公園、渋谷区役所人工地盤下駐車場(地下駐)、渋谷区役所前公衆便所を一斉に閉鎖し、三か所で生活するホームレスの強制立ち退きを行った。この事実は、第二東京弁護士会により認定され、人権侵害に当たると勧告されている。これら渋谷区の行ったホームレスに対する居宅保護の開始など代替措置の伴わない強制排除は、憲法及び世界人権宣言、社会権規約11条、自由権規約17条に反するもので、人権侵害に当たるものである。上記の渋谷区の事例は、当団体が少なからず関与した事例であるが、ホームレス状態の人の生活の基盤であるテントや荷物に対する不法な干渉又は攻撃は、渋谷区以外においても、頻繁に行われている(なお、念のため付言すると、渋谷区はホームレス支援等について、区に対して意見する又は協議を要請する場合に生活福祉課長を窓口とする旨を当団体に回答しており、当団体としては引き続き適切なホームレス支援がなされるよう生活福祉課長及び関係機関と協議を重ねていく所存である)。
以上のとおり、行政による強制排除、人権侵害が行われている現状において、「ホームレスの人権の擁護に関する事項」には、一番大きな柱として行政による人権侵害を起こさないことの徹底があげられるべきである。東京オリンピックを控え、今後ますますホームレスの強制排除、人権侵害がなされることが懸念される。基本方針を策定するにあたっては、ホームレスの方の意思を尊重し、くれぐれも排除がなされないよう明記することを強く求める。
以 上
渋谷区に対する勧告書
二弁の「勧告の理由」によると、渋谷区が「工事」などと主張していた同時封鎖について、渋谷区がホームレスの方々が起居していたことを知りながら一斉に封鎖したことを指摘し、ホームレスの方々に対する強制立ち退きに当たると認定。憲法25条、国際人権A規約(社会権規約)11条1項やホームレス自立支援法11条の趣旨から導かれる事前の協議・交渉や代替措置を講じなかったとして、ホームレスの方々の排除を人権侵害に当たると断じました。二弁は、直接の権利主体ではない支援団体の活動制限についても、渋谷区に対し、事前に十分な協議を行うよう要望しました。
この人権救済申立ては、当事者の皆さんと支援団体「渋谷・野宿者の生存と生活をかちとる自由連合 (略称=のじれん)」「聖公会野宿者支援活動・渋谷(ちかちゅう給食活動)」の依頼を受け、ちかちゅうの法律相談を担当しているホームレス総合相談ネットワークの法律家有志が代理人となって、2013年に弁護士会に申し立てたものです。二弁は実質4年の審理の過程で渋谷区からもその言い分を十分に聴いた上で、渋谷区の行為を人権侵害であると判断しました。渋谷区は、二弁の勧告を真摯に受け止め、ホームレスの方々やその支援団体を敵視している今の政策を改めなければなりません。長谷部区長は、ホームレスの方々やのじれん・聖公会と十分に話し合い、真の福祉の実現を図るべきです。
生活保護基準引き下げ方針を撤回する等の要望書
要 望 書
2017年12月27日
内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
厚生労働大臣 加藤 勝信 殿
生活保護基準引き下げに反対します(緊急ホットライン)実行委員会
代表 森 川 清
第1 要望の趣旨
1 厚生労働省は、生活保護利用当事者の真摯かつ悲痛な声を受け止めて、現在進めている生活保護基準の見直し案に基づく生活扶助基準(母子加算、児童養育加算を含む。)の引下げを撤回すること
2 厚生労働省は、生活保護基準の見直しにあたって生活保護利用当事者(以下「当事者」という。)を審議会に参加させ、当事者の意見の聴取および具体的な家計状況の調査を大規模に実施して、当事者の意見および事情を反映させた見直しをすること
3 内閣は、上記生活扶助基準引下げ部分について第1項の撤回に基づいて予算案の変更をすること
を要望する。
第2 要望の理由
1 厚労省案の発表
厚生労働省は、2017年12月8日に母子加算及び児童養育加算を含む生活扶助基準の引下げ方針を発表し、その後、同月14日付け社会保障審議会生活保護基準部会報告書(以下「報告書」という。)を受けるかたちで、2018年10月から生活扶助を3年かけて最大5%引き下げる方針を示し、見直しにより生活保護費は3年間で160億円とされている。そのうち、母子加算(子一人)については月額約5000円、児童養育加算の3歳未満児については月額5000円の引下げをしようとしている(以上をまとめて「厚労省案」という。)。
2017年12月22日、内閣は、厚労省案に基づく生活扶助基準引下げを含んだ予算案を閣議決定した。
2 当事者を蔑ろにした厚労省案の問題
報告書においては、2013年から行われた生活保護基準の大幅な引下げの影響の把握・評価について、生活保護利用当事者(以下「当事者」という。)の生活扶助基準の増減額の割合、家計の支出割合の統計的な推移の報告にとどまっていることが明らかにされている。
生活保護基準は、生活保護法8条2項により「必要な事情を考慮」することが強く要求されており、必要な事情を把握するためには、当事者などの影響を強く受ける人々の生活実態について大規模なインタビューや家計調査などを実施する必要があるにもかかわらず、いずれも実施されていない。
また、Nothing About Us
Without Us (私たちのことを、私たち抜きに決めないで)という考え方は生活保護においても適用されるべきであって、基準部会の議論に当事者の参加が求められるべきであるが、生活保護においては2017年3月の小田原市生活保護行政のあり方検討会以外に当事者の参加がなされていない。
3 ホットラインの開催
当事者が蔑ろにされている中で生活保護基準引下げがなされる状況のなか、生活保護問題に取り組む法律家及び市民の有志である我々は、実行委員会を組織し、厚生労働大臣に当事者の切実な生活状況及び意見を伝えるべく、2017年12月26日午前10時から午後7時まで東京・さいたま・大阪で電話13回線により「生活保護基準引き下げに反対します(緊急ホットライン)」を開催した。
電話は、同日午後7時まで鳴り止まず、多数の電話が寄せられた。
4 2013年引下げの影響
当事者からは、2013年からの引下げによって、①食事が削られている(中にはおかずがなく白米に醤油をかけて食べることもあるというものも複数あった)、②入浴回数が月に1回になってしまっている、③耐久消費財を購入する資金を保有する余裕が全くなく耐久消費財が壊れてしまったら買い換えられない、④衣服を買う余裕がなくサイズの合わない昔の服を着続けている、⑤冬はコタツだけで暖をとって暖房を使えない、⑥真冬に灯油が買えず肺炎になった、⑦交際費が捻出できず一切外出しない、などの声が寄せられる。
これらはいずれも日本国憲法が保障する「健康で文化的な」生活とは程遠いものというべきである。
厚生労働省は、かかる声があることを踏まえて、まずは2013年から行われた生活保護基準の大幅な引下げにより当事者にどのような影響があるかについて徹底的に調査すべきである。
5 今回引下げで保護費が減額された場合にどうするか
寄せられた声の中には、今回厚労省案により生活扶助基準引下げがなされ、3000円が減額された場合、衣服は普段から買っていないので、食費を削るしかないという意見も多かった。
また、これまで節約をし続けて、これ以上、生活費のどこを削ったらいいか想像もできないという意見も複数寄せられた。
中には、3袋100円のうどんを買って毎昼食べているが、いつも素うどんではさびしいので、卵をかけている。今回保護費が減額したら、卵をかけるのをやめるしかないという当事者もいた。それでも数百円しか節約できず、あとはご飯を削る、そこから先は想像できないという意見であった。
このように引下げ後の自分たちの生活について、想像もできず、自分たちの生活にビジョンを抱けない当事者が複数いる。低所得者との比較によって引き下げようとする厚労省案は、具体的な当事者の生活について、全くビジョンを欠いているというべきである。
6 まとめ
本ホットラインにおいて、当事者からは「生活していけない」「死んでくれと言われているようだ」「死ぬしかない」「弱いものいじめはしないでほしい」「当事者の声を聞いてほしい」「逆にあげてほしい」など、意見が多く寄せられた。
厚生労働省は、生活保護利用当事者の真摯かつ悲痛な声を受け止めて、当事者の意見および事情を反映させていない厚労省案に基づく見直しを含めて引下げを伴う生活保護基準の見直しを撤回すべきであり、内閣は、閣議決定した予算案のうち生活扶助基準引下げの部分を上記撤回に基づいて変更すべきである。
生活保護基準の引き下げ方針に対する緊急声明
生活保護基準の引き下げ方針に対する緊急声明
ホームレス総合相談ネットワーク
事務局長 高 田 一 宏
私たちホームレス総合相談ネットワークは、ホームレス状態にある方たちへの法的支援を行うために、2003年2月に結成されたグループです。メンバーは、弁護士、司法書士、その他専門家、ホームレス問題の支援者などです。
平成29年12月14日開催された社会保障審議会生活保護基準部会(以下「基準部会」)により社会保障審議会生活保護基準部会報告書(以下「報告書」)がとりまとめられたことを受け、緊急に声明を発します。
今でさえ低きに過ぎる、生活保護基準がこれ以上下がることに断固反対します。
その理由は、次のとおりです。
私たちが日常に支援するホームレス状態の人びとは、住居を失い衣食を欠く、絶対的貧困状態にあります。
確かに、ホームレス状態の人の生活実態は、比較対象である一般低所得層たる全国消費実態調査からも除外されていますが、絶対的貧困にもかかわらず、生活保護制度を利用できない/しない、理由を検証する必要があります。
理由の一つには、いわゆる水際作戦と言われる、保護を開始しない/保護は開始するが劣悪施設に収容する、という違法・不当な運用にありますが、特に、注視すべきは、ホームレスであった者もひとたび保護を受ければ、通常の被保護者・低所得者であるものかかわらず、ホームレスであった者として扱われ、劣悪施設に長期にわたり収容される差別(スティグマ)が続くことにあります。
そして、スティグマの存在は、決してホームレス特有の問題ではなことは、国連社会権規約委員会から、2013年5月最終見解として、「スティグマが高齢者に公的な福祉的給付の申請を思いとどまらせていること」に懸念を示された上で、「公的な福祉的給付に付随したスティグマをなくす観点から国民を教育すること」を勧告されていることからも明らかです。
スティグマの解消という国の責任を果たせていない現状において、単純に第1十分位(低所得者)との比較により、検証すれば、際限なく基準額は下がります。国は、少なからず生活保護が尊厳との引換給付となっている現状を直ちに解消すべきであり、無差別平等に保護が受けられる法の原理を徹底させることにこそ力を注ぐべきです。
以上